『MEKURU』―みんなのキョンキョン 誰も知らない小泉今日子

少し前のことですが何気なく見たインターネットのニュースで、カルチャー誌『MEKURU』の小泉今日子特集号が売れに売れ、書店から在庫がなくなり販売元で嬉しい悲鳴を上げている、という記事が目に飛び込んできました。ここ数年では「あまちゃん」の春子さんのイメージが強いかと思いますが、昔から「キョンキョン」のことが気になる存在だった店員Kは慌てて増刷分を予約注文、しばらく待ったのち無事手に入れることができたのでした。

MEKURU 全体
MEKURU VOL.07 / ギャンビットパブリッシング / 2016.2.4

内容はというと自宅でのショットや本人のロングインタビュー、そしてキョンキョンとゆかりのある作家や俳優仲間・歴代ディレクターなど総勢27名からのコメントが寄せられてるのですが、どのひとからも彼女への信頼や愛情で溢れていて、小さい頃から勝手に感じていた、懐の大きさだったりいつも自然体で嘘がないという印象は間違ってなかったんだなということが改めて感じられ、ますます大好きに。

3冊
エッセイストとしても一流です。

ちなみにこの『MEKURU』というカルチャー誌は2013年に創刊したまだ新しい雑誌で、社員わずか5人という少数精鋭の出版事業部だそう。この出版不況といわれる時代にすごいぞ!と称賛を送りたい!ここ最近はあまり雑誌やムック本を買わなくなってきたのですが、この雑誌がこれからどんな特集を組んでいくのか気になる存在となりそうです。

草古堂では人気のタレントさんの特集雑誌なども多数取り扱っております。ぜひご来店下さいませ。

アニメ『カードキャプターさくら』再放送開始!!

4月6日より、BSプレミアムにて毎週水曜日18:00~アニメ『カードキャプターさくら』の再放送が始まりました!!

かなり前の記事でも一度触れた、「なかよし60周年記念企画」によって引き起こされているカードキャプターさくらリバイバル。長らく入手困難となっていた『クロウカードセット』が復刻され、『カードキャプターさくら』の連載開始20周年が重なったことにより原作者CLAMP先生による自選イラスト集も発売、ついにはTwitterに「カードキャプターさくら」公式アカウントまで開設されるという驚きの展開に!! まさか、2016年になってこんなことが起こるとは……。さらに、噂によると近々『なかよし』本誌に描き下ろしの読み切りが掲載されるとのことで、長年のファンとして感極まっております。

カードキャプターさくら 連載開始20周年記念 イラスト集 / CLAMP / 講談社 / 2016
カードキャプターさくら 連載開始20周年記念 イラスト集 / CLAMP / 講談社 / 2016

ちなみに、現在アニメイトカフェさんにて「カードキャプターさくらカフェ」が開催されていて、そちらでは熾烈なチケット争奪戦が起こっています。わたしは運良く席をとることができたので、さくらファンの友人と近日中に行ってまいります!! 私事で恐縮ですが、あまりに楽しみで浮かれているのでつい書いてしまいました……。カフェの感想でもうひとつ記事を書きかねない勢いです。さすがに自重しますよ!!

『カードキャプターさくら』は、「魔法少女もの」のエンターテイメント性を有しているのと同時に、いろいろな形の「愛」あるいは「恋」を描き出した作品でもあります(アニメ版ではやや控えめな描写になっていたりもするので、ぜひ原作を読んでいただきたいところ)。これは『セーラームーン』にもいえることで、今の20代、いわゆる「セーラームーン世代」および「カードキャプターさくら世代」にLGBTその他さまざまな性的マイノリティを〈あたりまえにそこにあるもの〉として自然に受け入れている人が(比較的、ではありますが)多いのはこの2作品の影響が強いのではないかとネットの一部でいわれているほど。再放送によって生まれるであろう新たな「カードキャプターさくら世代」の子達が、ストーリーを楽しみキャラクターに憧れながら、同じようにそのメッセージを受け取って、大人になってもその温かな態度を忘れることのないように祈りたいと思います。

当店では、『カードキャプターさくら』や『美少女戦士セーラームーン』といった名作少女漫画やその関連書籍の買い取り大歓迎です。原作コミックをお出しになる際は、ぜひ全巻セットで!! 出張買取も行っていますので、お気軽にお問い合わせください

入荷情報:『アンと青春』―奥深い和菓子の世界―

デパ地下の和菓子店「みつ屋」を舞台にした人気作『和菓子のアン』の続編、『アンと青春』が幕張店に入荷しました。世界的ベストセラー『赤毛のアン』の続編と一文違いなのは(ちなみにあちらはアン「の」青春です)当然狙ってのことでしょう 笑。

アンと青春 / 坂木司 / 光文社 / 2016

ちょっぴりふっくら気味の主人公、食べるの大好き「アンちゃん」こと梅本杏子が、アンちゃんを温かく見守り導いてくれる個性豊かな店員さんたちや、和菓子に込められた深い意味合いを通じて、来店したお客さまのちょっとした謎を解いたり、時には叱られて落ち込んだりしながら成長していく「お仕事ミステリー」ですが、作者の坂木司さんにかかるとどんなエピソードでも全体的にほんわかムードで安心して読み進められます。たまにダークなお話を読んだ際に面白いと思うと同時に疲れてしまうことがありますが、そんな時は坂木作品を読めばほっとできること請け合いです。

和菓子には一つ一つ物語があって、季節ごとに品が変わります。今回は貝合わせを模した『蛤』、桃の節句にちなんだ『桃』、流しびなを模した『曲水』などといった、なんとも雅なお菓子が登場します。これらの素晴しい和菓子も、想像力が追いつかなくてどんな見た目なんだろう!? と歯がゆく感じることもあるので、そんなときはこちらを合わせて読むと相乗効果で楽しいです。

アンと青春2
和菓子のアン 全3巻/ 猪狩そよ子 / 花とゆめコミックス

当店では小説などの単行本の買取りも行っております。文庫本になるとどうしても元の単行本の値が下がってしまうので、ぜひお早めにお売りいただくことをお勧めいたします! どうぞお気軽にご相談、お問合せください!

『白痴』―苛烈で野蛮で人間的な愛

『罪と罰』と『カラマーゾフの兄弟』、そして『地下室の手記』の印象が強すぎるために、どうにも他の作品の影が薄れてしまいがちな感のあるドストエフスキーですが、今回はそんな彼の五大長編のひとつ、『白痴』を紹介させていただこうと思います。

先に挙げた3作品に比べると知名度こそやや低いものの、独特の人生観や死生観といったドストエフスキー作品の哲学的な魅力を保ちつつ、同性間の愛(ムイシュキン公爵とロゴージン、ナスターシャとアグラーヤ)や「男と男のあいだで〈流通〉する女」といったジェンダー論の視点からも読み解くことのできる作品なので、そういった方面に興味がおありの方にも楽しんでいただけることでしょう。そして、それぞれの登場人物たちの人間的魅力といった点でも、『白痴』は『罪と罰』や『カラマーゾフ』にけっして引けをとりません。

白痴 上巻 / ドストエフスキー 木村浩訳 / 新潮社 / 2004
白痴 上巻 / ドストエフスキー 木村浩訳 / 新潮社 / 2004

なんといっても、この作品の最大のヒロインにして、主人公たるムイシュキン公爵とロゴージンにとってのファム・ファタール、ナスターシャ・フィリッポヴナ!! 持参金を目当てに彼女と契ろうとしたガヴリ―ラの目の前で、炎の燃え盛る暖炉に札束を投げこみ「とってごらんなさい、素手で。そしたらあなたのものよ」と嗤う狂気じみた苛烈さをみせる一方で、涙で頬を濡らしながら笑みを繕って公爵に別れを告げようとするはっとさせられるほどの弱さ脆さを持ちあわせる彼女。その不安定さは、どことなく『嵐が丘』のキャサリン・ロックウッドを彷彿とさせます。

ムイシュキン公爵の「きみの恋は憎しみとすこしも区別がつかないものなんだね」という台詞が象徴的なのですが、ムイシュキン公爵と対の位置におかれ、もう一人の主役の役割を果たすロゴージンにもヒースクリフと若干ながら重なるところがあり、彼ら彼女らのあまりに野蛮で容赦のなく切実な愛情という点において、『白痴』と『嵐が丘』はおどろくほど似通っているので、『嵐が丘』好きは『白痴』も好きになるのでは? という仮説をこっそり立ててみたりしています。かなり強引な論法ですが、あながち間違いではない気がしているんですよね……。

そのほかにも、ナスターシャの恋敵(そして、憧れ)ともなるアグラーヤ(彼女もなかなか苛烈なお人です)や、学問にはあまり精通しておらずとも、心からの思いやりや厳しさという溢れんばかりの人間的魅力をもった、アグラーヤたち3姉妹の母であるリザヴェータ夫人、ニヒリスティックな立場を貫きつつ、夫人の欺瞞のない憐れみに心うたれた青年イポリート……さまざまな人物が登場し、それぞれの人生にドラマがあり、そのドラマのなかに必ず愛が描かれています。

そして、『罪と罰』のソーニャとラスコーリニコフの愛がその宗教色の強さゆえに日本人にはすこし馴染みにくいものがあるのに対し、『白痴』は(ドストエフスキー後期の作品なので当然ある程度の宗教色はあるものの)もっと俗で人間的な、叩きつけるような愛を提示してくるので、なんというか引っかかりなく「はいってくる」のではないかと思います。ひとつの恋愛小説としても読めますし、あえて『白痴』からドストエフスキー長編への扉をくぐるのもありかもしれませんね。

まったくの余談ですが、作中でさらっと流されるガヴリーラの長台詞の一部、「人間の自尊心というものがどんな手品をやらかすものか、あなたには想像もつかないでしょうがね」というフレーズが、個人的にはやたらと印象にのこっています。なにかのエピグラフに使われていそうな趣のあるフレーズだと思いませんか?

当店では、海外の古典文学大作の買い取り大歓迎です!! ぜひ全巻揃いでお出しください。出張買取も承りますので、お気軽にお問い合わせください

『新世界より』―綿密な世界観

貴志祐介、というとやはり映画化もされた『悪の教典』などサイコホラー系統の作品で有名ですが、今回は、それらとはすこし毛色の違う長編『新世界より』をご紹介させていただきたいと思います。

新世界より 上巻 / 貴志祐介 / 講談社 / 2011
新世界より 上巻 / 貴志祐介 / 講談社 / 2011

数カ月前、わたしは貴志さんの著作のひとつ『青い炎』は『罪と罰』へのオマージュであるということを知って、それまでさほど興味のなかった彼の作品を読んでみようという気を起こしました。が、しかし、『悪の教典』はすこし苦手な予感がするし、『青い炎』はパロディーである以上最初に読むのはなんだか躊躇われるし……と手始めに読んでみる作品が決まらず悩んでいたところ、貴志作品の愛読者である知人から『新世界より』を勧められたので、大学が春休みにはいったのを機に一気読み。

結果、とてもおもしろく、とりわけ世界観の綿密さには圧倒されるものがありました。作品のジャンルとしてはSFにあたりますが、舞台として設定されているのは、「古き良き」日本の原風景。そこに生息する、人語を解し人間に服従する〈バケネズミ〉や、交渉や駆け引きといった過度に文化的な行動をとる〈ミノシロモドキ〉、その他どう考えても不自然な進化を遂げている数多の動物たち。ぽんぽんと登場する村落の名前や、土の匂いまで感じられそうな田園風景の描写、図鑑のごとし細かさで説明される生物の生態、それらすべてが一体となって作品のリアリティを強め、読者をその独特の世界観へ誘います。

ページ数が多いとどうしても、読み通すのは大変そうという印象を受けてしまいがちですが、この作品は文体や話の展開からしてかなり読みやすい部類にはいるので、長編小説を読んで世界観に浸りたいけどドストエフスキーやトルストイ、ユゴーといった古典はちょっと厳しい、という方にちょうどいいかもしれません。文体が軽く、描写が映像的(貴志祐介作品が映像化されやすい由縁かもしれません)でライトノベルちっくなところもありますから、普段本は読まないけどアニメやドラマ・映画は好き、という方にもおすすめできますし、「機械! 宇宙! 終末! 」というような雰囲気をとっつきにくく感じてSFに苦手意識を抱かれている方にも、ぜひ読んでいただきたいです。

数年前にアニメ化もしていたようで、OPとEDの映像を観てみた限りでは、静かな美しさが却って不気味な原作の雰囲気が尊重されているようで好印象でしたし、評判も良いようなので、機会があれば観てみようと思います。

当店では、エンタメ大作の買い取り大歓迎です!! ぜひ全巻揃いでお出しください。出張買取も承りますので、お気軽にお問い合わせください