貴志祐介、というとやはり映画化もされた『悪の教典』などサイコホラー系統の作品で有名ですが、今回は、それらとはすこし毛色の違う長編『新世界より』をご紹介させていただきたいと思います。
数カ月前、わたしは貴志さんの著作のひとつ『青い炎』は『罪と罰』へのオマージュであるということを知って、それまでさほど興味のなかった彼の作品を読んでみようという気を起こしました。が、しかし、『悪の教典』はすこし苦手な予感がするし、『青い炎』はパロディーである以上最初に読むのはなんだか躊躇われるし……と手始めに読んでみる作品が決まらず悩んでいたところ、貴志作品の愛読者である知人から『新世界より』を勧められたので、大学が春休みにはいったのを機に一気読み。
結果、とてもおもしろく、とりわけ世界観の綿密さには圧倒されるものがありました。作品のジャンルとしてはSFにあたりますが、舞台として設定されているのは、「古き良き」日本の原風景。そこに生息する、人語を解し人間に服従する〈バケネズミ〉や、交渉や駆け引きといった過度に文化的な行動をとる〈ミノシロモドキ〉、その他どう考えても不自然な進化を遂げている数多の動物たち。ぽんぽんと登場する村落の名前や、土の匂いまで感じられそうな田園風景の描写、図鑑のごとし細かさで説明される生物の生態、それらすべてが一体となって作品のリアリティを強め、読者をその独特の世界観へ誘います。
ページ数が多いとどうしても、読み通すのは大変そうという印象を受けてしまいがちですが、この作品は文体や話の展開からしてかなり読みやすい部類にはいるので、長編小説を読んで世界観に浸りたいけどドストエフスキーやトルストイ、ユゴーといった古典はちょっと厳しい、という方にちょうどいいかもしれません。文体が軽く、描写が映像的(貴志祐介作品が映像化されやすい由縁かもしれません)でライトノベルちっくなところもありますから、普段本は読まないけどアニメやドラマ・映画は好き、という方にもおすすめできますし、「機械! 宇宙! 終末! 」というような雰囲気をとっつきにくく感じてSFに苦手意識を抱かれている方にも、ぜひ読んでいただきたいです。
数年前にアニメ化もしていたようで、OPとEDの映像を観てみた限りでは、静かな美しさが却って不気味な原作の雰囲気が尊重されているようで好印象でしたし、評判も良いようなので、機会があれば観てみようと思います。
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