『新世界より』―綿密な世界観

貴志祐介、というとやはり映画化もされた『悪の教典』などサイコホラー系統の作品で有名ですが、今回は、それらとはすこし毛色の違う長編『新世界より』をご紹介させていただきたいと思います。

新世界より 上巻 / 貴志祐介 / 講談社 / 2011
新世界より 上巻 / 貴志祐介 / 講談社 / 2011

数カ月前、わたしは貴志さんの著作のひとつ『青い炎』は『罪と罰』へのオマージュであるということを知って、それまでさほど興味のなかった彼の作品を読んでみようという気を起こしました。が、しかし、『悪の教典』はすこし苦手な予感がするし、『青い炎』はパロディーである以上最初に読むのはなんだか躊躇われるし……と手始めに読んでみる作品が決まらず悩んでいたところ、貴志作品の愛読者である知人から『新世界より』を勧められたので、大学が春休みにはいったのを機に一気読み。

結果、とてもおもしろく、とりわけ世界観の綿密さには圧倒されるものがありました。作品のジャンルとしてはSFにあたりますが、舞台として設定されているのは、「古き良き」日本の原風景。そこに生息する、人語を解し人間に服従する〈バケネズミ〉や、交渉や駆け引きといった過度に文化的な行動をとる〈ミノシロモドキ〉、その他どう考えても不自然な進化を遂げている数多の動物たち。ぽんぽんと登場する村落の名前や、土の匂いまで感じられそうな田園風景の描写、図鑑のごとし細かさで説明される生物の生態、それらすべてが一体となって作品のリアリティを強め、読者をその独特の世界観へ誘います。

ページ数が多いとどうしても、読み通すのは大変そうという印象を受けてしまいがちですが、この作品は文体や話の展開からしてかなり読みやすい部類にはいるので、長編小説を読んで世界観に浸りたいけどドストエフスキーやトルストイ、ユゴーといった古典はちょっと厳しい、という方にちょうどいいかもしれません。文体が軽く、描写が映像的(貴志祐介作品が映像化されやすい由縁かもしれません)でライトノベルちっくなところもありますから、普段本は読まないけどアニメやドラマ・映画は好き、という方にもおすすめできますし、「機械! 宇宙! 終末! 」というような雰囲気をとっつきにくく感じてSFに苦手意識を抱かれている方にも、ぜひ読んでいただきたいです。

数年前にアニメ化もしていたようで、OPとEDの映像を観てみた限りでは、静かな美しさが却って不気味な原作の雰囲気が尊重されているようで好印象でしたし、評判も良いようなので、機会があれば観てみようと思います。

当店では、エンタメ大作の買い取り大歓迎です!! ぜひ全巻揃いでお出しください。出張買取も承りますので、お気軽にお問い合わせください

『悪童日記』―穢れのない簡潔さ

『悪童日記』。近年映画化もされましたし、もともと世界的に名の知れた作品なので、読んではいないけれどあらすじくらいなら知っているし興味もある、という方もきっといらっしゃるでしょう。そんな方がこの小説をお読みになるきっかけにでもなってくれれば、と、今週はあえて有名にすぎる『悪童日記』を紹介させていただきたいと思います。

悪童日記 / アゴタ・クリストフ 堀茂樹訳 / 早川書房 / 2001
悪童日記 / アゴタ・クリストフ 堀茂樹訳 / 早川書房 / 2001

この『悪童日記』では、「魔女」と呼ばれる祖母のもとへ疎開した双子が見聞き経験したものごとが、彼ら自身の手になる「大きなノート」の文面という形で淡々と語られてゆきます。常に「ぼくら」という一人称を用い、ふたりでひとりの体を崩さない双子。彼らの眼前に展開する物事のなかには、大戦下という時代設定も相俟って悲劇的なものも多くありますが、それを見据え語る彼らの視点は終始透徹しており、とり乱すということがありません。

しかし機械的ではなく、その底に沈められた感情をたしかに感じさせる特異な文体に、個人的にはドイツの文芸批評家ヴァルター・ベンヤミンが論文「物語作者」において論じた「穢れのない簡潔さ」という言葉が連想されます。長くなってしまうので引用は避けますが、簡単に説明すると、読者(聞き手)に何よりも深く物語を印象づけるものは、簡潔さであるというのです。説明をされない、その場その時の登場人物の心情をしめされない、だからこそ、物語の聞き手である読者は自らそれを推察し、それがそのまま物語を記憶にとどめる重しとなる。ロシアの巨匠アンドレイ・タルコフスキー監督の映画「アンドレイ・ルブリョフ」のなかでも、「虚飾を排した簡潔さ、これは金言だよ」という発言がなされており、こちらも同時に思い出されます。

ちなみに、『悪童日記』が『二人の証拠』『第三の嘘』とつづく三部作の第1作目にあたるものであるということを、私は『悪童日記』のあとがきを読んではじめて知りました……。書店で個々を目にすることは度々あったのですが、別々の作品として認識していたので、三部作と知って「あれ続編だったのか!! 」と驚かされたものです。

『悪童日記』それのみでも、十分にひとつの傑作としての完成度を誇ってはいますが、長編を読むのが苦にならない方はぜひ、つづく『二人の証拠』『第三の嘘』のほうもお読みになっていただければと思います。もう凄まじいのです、『悪童日記』で完結をみせたと思われた世界が徐々に疑われ解体されてゆき、散らばり反転し、読者のなかで何が真実で何が虚構であったのかが混迷してゆく(そもそも〈真実〉などあるのか? という疑問へと誘われてゆく)、あの感覚はそう味わえるものではありません。あの『ドグラ・マグラ』と同じくらい、読んでいて頭のなかが迷路のようになる、至高の読書体験ですよ。

当店では、クリストフの三部作も揃うハヤカワepi文庫の買い取り大歓迎です。出張買取も承りますので、お気軽にお問い合わせください

『恐竜vsほ乳類』

恐竜は毎年どこかで恐竜展が開催されていたり、現在公開中の「アーロと少年」や「ジュラシックパーク」などの映画にもなったりして本当に人気がありますよね!やっぱりあんなに巨大な生物が生きていたと思うとロマンがあります。それに今も新しい発見が見つかるというのは興味深いです。この本の中にも掲載されている羽毛が生えていたという説は衝撃的でした。最新の研究でこの先どんな事が分かるのか楽しみです。その時はまたこの本みたいに分かりやすく解説してくれるといいな!

恐竜VSほ乳類 / NHK「恐竜」プロジェクト編 / ダイヤモンド社/ 2006
恐竜VSほ乳類 / NHK「恐竜」プロジェクト編 / ダイヤモンド社/ 2006

当店では、自然科学などの書籍も扱っております。ぜひご来店くださいませ。

『Photoshop+Illustrator Design Technique』

「フォトショップ」と「イラストレーター」のテクニック集です。2つのソフトの基本機能を理解している上でのテクニックなので、中級者以上のひと向けの内容になります。難しくても載っている技術をマスターすれば、この本の表紙も作れてしまうみたいです。店員Sも「フォトショップ」で絵を描いた事があるのですが、難しくも凄く楽しかったです。さらに機能を勉強して使いこなせれば、もっといろいろな事が出来て面白くなりそうですね。

Photoshop+Illustrator Design Technique / 井上のきあ / 翔泳社 / 2008
Photoshop+Illustrator Design Technique / 井上のきあ / 翔泳社 / 2008

当店では、この本の他にも水彩画やデッサンなどの絵画技法の本も取り扱っております。ぜひご来店くださいませ。

『CLOVER』―しあわせになりたい

『カードキャプターさくら』に『X』、『ツバサ-RESERVoir CHRoNiCLE-』に『ちょびっツ』と、多彩な作品を発表しつづけ、幅広い読者層から絶大な支持を得ている4人組の漫画家CLAMP。今回は、そんな彼女たちの作品の中ではあまり知られていない傑作、『CLOVER』を紹介させていただきたいと思います。

CLOVER 第1巻 / CLAMP / 講談社 / 1997
CLOVER 第1巻 / CLAMP / 講談社 / 1997

画面構成や会話のリズムといったところに美点のある作品なので、あらすじだけまとめて紹介するのは不粋なのですが、とりあえずざっとかいつまんでみると、このような流れ。退役軍人である琉・F・和彦は、かつての恩人から依頼され、とある少女を彼女の望みの場所である「妖精遊園地」へ送りとどけるという役目を引きうけます。「しあわせになりたい」「だから連れてってここじゃないどこかへ」というフレーズの繰り返し登場する、和彦の亡き恋人・織葉の歌を口ずさみつづける少女・スウ。なぜ彼女は幽閉されていたのか、なぜ織葉の歌に執着するのか、なぜ壊れた遊園地へ行きたいのか。多くの謎をかかえたまま、彼らは目的地にたどり着き、そして……。

『CLOVER』は、とても独創的な作品です。まず挙げられるのが、思いきったコマ割り。余白、というかコマに囲まれていない部分があまりに広く、コマの中で物語が進行するというよりは、登場人物や背景・小物へのスポットライトとしてコマが使われている、といった風情があります。つぎに、異様に細かく振られたタイトル。目次をひらくと、「葉」「森の中の小さな翼」「歌う少女」ほか21題がずらっと並べられており、本編を読みすすめると、平均して5ページほど、短ければ見開きの左右両方にというペースで読者の目にはいってくるこの題は、一般的な読み物で使われるような「章題」ではなく、もはや場面タイトルとでも称するのがふさわしいものとなっています。

イラストに着目してみると、トーンを使わず白黒ベタのみで塗ることで、どきっとするほどまっすぐに印象を叩きつけてくる画面が作りだされ、そのシンプルさが却って不思議な雰囲気を漂わせます。そういった面では、『xxxHOLIC』に近いところがあるかも……? そして、話の構成。ひとつの物語(たとえば和彦とスウの)が幕を閉じると、そこに登場した人物にまつわる過去が描き出され、その話がおわるとまた別の人物の過去が……といった具合に、「現在」から「過去」へ、糸をたぐるように時間軸を遡って話が展開されるのですが、彼ら彼女らに待ちうける結末をすでに知っている読者には、登場人物たちとはまったく違う視点が与えられ、それによってさらにこの作品のもつ不思議な印象が強められるのです。

2008年には全2巻の新装版も出たようですが、個人的には全4巻の旧版のほうがよかったなあと思ってしまいます……。スウと和彦を追う1・2巻、和彦と織葉の過去を描く3巻、そして、てっきり名脇役にとどまると思われた銀月と藍の出会いを、なんと丸一冊つかって描く4巻、とそれぞれの人間模様が巻ごとに収まりよくまとまっているので。とくに3巻、4巻は別々の冊子で持っていたい気持ちが……ううん、悩ましい。

この作品、今のところは完結扱いとなっていますが、CLAMPさんが続編執筆のご意思を表明されているので、いつか続きを拝むことができるかもしれません。とはいえ、4巻まででも十分に楽しめますので、すこしでも興味をもってくださった方はぜひお読みになってみてください。