猫の本

最近はテレビや雑誌などでもよく特集されていますが、凄い猫ブームですよね。店員Sも飼ってはいませんが猫好きです。野良猫を見かけて撫でようとしたりすることもありますが、やはり警戒心が強くてすぐに逃げられてしまって寂しい思いをよくします。そんなときにたくさん出版されている猫の写真集を見ると癒やされますね。もちろん厳選された写真を掲載しているのだと思いますが、何気ない仕草が本当に可愛いです。ブームが長続きしてもっといろいろな本が出版されたらいいなと思います。

猫

草古堂 幕張店では、猫や犬の書籍を集めたコーナーもございます。ぜひご来店くださいませ。

アップデイトダンス「白痴」―どんなムイシュキンが現れるのか

荻窪駅近くのカラス・アパラタスにて21日から、勅使川原三郎主催の「KARAS」によるアップデイトダンス「白痴」が上演されているのをご存知でしょうか?

ダンス「白痴」2

原作であるドストエフスキーの『白痴』に関しては、以前記事を書かせていただきました。私はこれから鑑賞するのですが、あの溢れんばかりの愛憎がどう表現されるのかとても楽しみです。激していながら終始どこか静謐さを漂わせるあの作品は、考えてみるとたしかに、率直にすぎる「言葉」というもののないダンス向きであるのかもしれません……やはり非常に困難な試みであるためか、勅使川さんがこの作品へ寄せられたコメントも静かな気迫を湛えていて、観に行くこちらまで身が引き締まる思いがします。

ごく個人的なことを言ってしまえば、つい先日友人に借りていた山岸凉子先生の『テレプシコーラ』を読み終えて(そのうち感想を書きたいと思います)バレエ・ダンスに対する関心が高まっているところにこの公演の知らせが舞い込んだので、すこし不思議な気持ちです。なんというか、巡り合わせだなあと……。公式ブログを遡ってみると、5月には「春と修羅」のダンス化もされていたようで、見逃してしまったことが心底悔やまれます。

1週間とすこしという短期間の公演ですが、チケットのお値段も比較的お手頃なことですし、『白痴』がお好きな方や身体芸術に興味がおありの方はぜひ一度足を運ばれてみてはいかがでしょう?

『菜の花食堂のささやかな事件簿』でほっこりと

テレビドラマにもなった『書店ガール』の著者、碧野圭さんの最新作です。すっかり碧野さんにハマってしまったので待っていた1冊でした。

菜の花 
菜の花食堂のささやかな事件簿 / 碧野圭 / だいわ文庫 / 2016

舞台は、昭和モダンな木造家屋を改装したレストラン『菜の花食堂』で月に2度開講されている料理教室。オーナーシェフの靖子さんは、普段はおっとりといつも柔らかな微笑みを絶やさない年配の女性ですが、料理教室に集まる生徒さんたちに起こる日常の小さな「事件」を、時に美味しい料理を通じつつ独特の鋭い観察眼で解決していきます。

物語の進行役はアシスタント兼生徒でもある派遣社員の20代女性。その彼女から見た靖子先生が何ともチャーミングで素敵なんです。何でも受け入れてくれるあたたかさと懐の広さがあって、まるで菩薩のようなひとです笑。物語の進行役の女性が抱えてた過去の傷が段々と明らかになっていくのですが、彼女に靖子先生と菜の花食堂との出逢いがあってよかったなあとフィクションとは分かっていても心から思わずにいられませんでした。そんな先生自身が抱えている事情も終盤に向けて判明していきます。靖子先生は1日にして成らず、です。

生徒さんそれぞれ抱えている問題が題名のような「ささやかな」とは言えないような人生を左右するような事情だったりもするので、ともすれば重くなりがちですが、全体に流れる空気は表紙カバーのイメージそのものにほっこりあたたかです。

店員Kは読んだ後しばらく立ち直れないようなずっしりくる重厚感のあるストーリーも好きなのですが、やはりほっとできるお話は個人的に絶対必要です。もしかしたら無意識にずっしり系と交互に読んでるかもしれません。ということはお次はずっしりか……笑。

『三国志』

三国志は映像化されたり、ゲームになったり、今も昔も人気ですよね。その中でも定番といったらやはり横山光輝の漫画と吉川英治の小説だと思います。

店員Sが子供の頃にも読んでいる友達がいました。吉川英治の漫画は全60巻あるので持っていた友達を羨ましく思ったものです。今でもなかなかいいお値段ですしね(笑)。それでも借りて読んだり、当時NHKで放送していた人形劇を見たり、コーエーのゲームで武将の名前などを覚えました。ただ知らない登場人物もまだまだいますし、知らない話がたくさんあるので、いろいろな方向から書かれた三国志関連本を読むのは楽しそうですね。

三国志 全60巻 / 横山光輝 / 潮出版社
三国志 全60巻 / 横山光輝 / 潮出版社
新装版 三国志 全5巻 / 吉川英治 / 講談社文庫
新装版 三国志 全5巻 / 吉川英治 / 講談社文庫

幕張店では、三国志以外にも漫画や小説をいろいろ取り扱っております。ぜひご来店くださいませ。

現在を記録する―今和次郎・吉田謙吉『モデルノロジオ』『考現学採集』

私が去年書いたブログに、路上観察学について書いたものがありました(ちくま文庫『路上観察学入門』に見る林丈二氏の飽くなき好奇心)。その中では路上観察学についてや林丈二氏の「癖」もしくは「業」としかいいようのない記録・採集の一部を紹介いたしましたが、実は路上観察学には嚆矢、始祖、母体、元祖ともいえる学問が大正、昭和初期にすでに存在したのです。今和次郎氏が提唱した「考現学」がそれです。

考現学は、時間的には考古学と対立し、空間的には民俗学と対立するものであって、もっぱら現代の文化人の生活を対象として研究せんとするものである。

藤森照信編、今和次郎著『考現学入門』

リアルタイムに今現在の生活・風俗を記録・採集していく学問、考現学。民俗学者・柳田国男氏に師事していた今氏は考現学研究のために破門されたとも言われています(が、それは今氏の冗談ではないかとの説もあります)。そして1930年(昭和5年)、関東大震災後のバラック街のスケッチ等の活動をしていた吉田謙吉氏と共に『モデルノロジオ 考現学』を上梓します。

今和次郎・吉田謙吉編著『考現学 モデルノロジオ』。左は1986年の学陽書房版(復刻版)。右は昭和5年発行の春陽堂版(オリジナル)。
今和次郎・吉田謙吉編著『モデルノロジオ 考現学』。左は1986年の学陽書房版(復刻版)。右は1930年発行の春陽堂版(オリジナル)。

それでは考現学の一大金字塔『モデルノロジオ 考現学』を紐解いてみましょう。

今和次郎・吉田謙吉編著『考現学 モデルノロジオ』より今和次郎「女の風俗」
今和次郎・吉田謙吉編著『モデルノロジオ 考現学』より「女の風俗」

上図は1925年初夏における、銀座の街行く女性の身なりについて統計を取ったものです。髪型、化粧の具合、メガネの有無など。その他にも靴、着物、洋服の襟の種類、持ち物まで子細に調べてあります。本文に“全然素顔の人は極くわずかだということになりました”とあります。やはり銀座を歩くとなれば、当時の女性も気合を入れて化粧をしたのでしょうか。

今和次郎・吉田謙吉編著『考現学 モデルノロジオ』より「手拭の巻き方、冠り方、引つかけ方」
今和次郎・吉田謙吉編著『モデルノロジオ 考現学』より「手拭の巻き方、冠り方、引つかけ方」

続いては当時の下町にみられる職人さんの身なりを図にしたものです。資料性を持ちながら、味わいのある魅力的な吉田謙吉氏の図。子供の頃に見た図鑑などもそうですが、資料図って見ているだけでワクワクしてきます。

今和次郎・吉田謙吉編著『考現学 モデルノロジオ』より「露台利用者の休息状態」
今和次郎・吉田謙吉編著『モデルノロジオ 考現学』より「露台利用者の休息状態」

こちらは1927年、上野公園で横になって休んでいる人の寝姿いろいろ。人の寝姿というのはよっぽど考現学者の記録意欲をそそるのか、同書には「丸ビル紳士いねむり状態」も掲載(下図)。

今和次郎・吉田謙吉編著『考現学 モデルノロジオ』より「ゐねむりとヒル寝」
今和次郎・吉田謙吉編著『モデルノロジオ 考現学』より「ゐねむりとヒル寝」

やはり生理現象、寝姿は今も昔も変わらないようです。こんなお父さん方を公園で見かけることもありますよね。

今和次郎・吉田謙吉編著『考現学 モデルノロジオ』より「丸ビル モガ 散歩コース」
今和次郎・吉田謙吉編著『モデルノロジオ 考現学』より「丸ビル モガ 散歩コース」

上図は丸ビルをブラブラするモダンガールの散歩コースを記したもの。これは女性のあとをつけて記録しているわけで、立派な「尾行」です。2000年にストーカー規制法が施行される70年以上前。「おおらかな時代だった」という免罪符は強いなあと思います。

今和次郎・吉田謙吉編著『考現学 モデルノロジオ』より「煙草の吸殻収集報告」
今和次郎・吉田謙吉編著『モデルノロジオ 考現学』より「煙草の吸殻収集報告」

ブログで紹介するにあたってキャッチーだと思ったので、人間を対象とした研究を挙げてきましたが、当然ながら人間だけでなく物も考現学研究の対象です。こちらは昭和3年横浜駅から桜木町駅を1時間歩きながら拾ったタバコの吸殻。路上清掃ではなく、記録・採集です。本文中にある“右側歩道で拾い集めた吸殻総数は187本、左側歩道上で数え上げた数字は1276本”という、左右でカウントを分けているところに研究者としての深い業を感じます。

吉田謙吉編著『考現学採集』、学陽書房による1986年復刻版。
今和次郎・吉田謙吉編著『考現学採集』、学陽書房による1986年復刻版。

『モデルノロジオ 考現学』を上梓したその翌年1931年に今・吉田両氏は『考現学採集』を上梓、考現学の研究・発表を続けます。

吉田謙吉編著『考現学採集』より「恋愛考現学」
今和次郎・吉田謙吉編著『考現学採集』より「恋愛考現学」

『考現学採集』より、こちらはラブレター、本書的に言うならば“恋愛的通信”の保存場所あれこれです。“20才くらいの妹と住んでるので差し当り壁にかけてある額の裏におき”や“破いて棄てるのが常”など、保存場所ひとつで人間ドラマが目に浮かぶようで何とも興味を惹かれます。

吉田謙吉編著『考現学採集』より「東京某暗黒街分析」
今和次郎・吉田謙吉編著『考現学採集』より「東京某暗黒街分析」

上図は当時の風俗街にみられた広告看板や注意書きなど。ほかにもいわゆる「覗き部屋」の覗き窓の形状の種類を記録したものもあります。こういう艶っぽいものは対象としてそそられるのは当然でしょう。先ほどのモダンガールの散歩コースもそうですが、その他には街行く女性の脚線を記録したり(“靴下の皺ナシ脚線は30人中たった二人”など、ものすごく細かく観察している)、スカートの長さの研究など、女性に対する研究に熱を上げているところもあり、一歩間違えれば……と考えてしまいます。

今手元にある『考現学採集』は復刻版ということで、追加収録されているご存知林丈二氏の寄稿の一部を最後にご紹介しましょう。

吉田謙吉編著『考現学採集』より
今和次郎・吉田謙吉編著『考現学採集』より「ホテル考現学ヨーロッパ編」

やっぱりイラストレーターだけあって、見やすく可愛らしい絵です。1980年代に林氏が利用したヨーロッパのホテルのトイレの様子や、鍵の形状などの記録。林氏の魅力を再確認させられました。

以上、『モデルノロジオ 考現学』『考現学採集』の2冊を使って、魅力的な考現学の世界の一部をご紹介させていただきました。日々の営みの些細なことが考現学の素であり、自分の生活を見つめなおすことは考現学の第一歩です。家計簿の中には立派な我が家の考現学が詰まっています。皆さんの暮らしが小さな発見で満たされ、面白い毎日でありますよう。

当店では、人文科学やサブカル、その他書籍いろいろと買取りを承ります。どうぞお気軽にご相談、お問合せください。お待ちしております!