中島らも、4時ですよ〜だ、阪神大震災、千日前、、、大阪のあの時代・あの場所を追体験しつつ、誰の人生にもある、けど普段は奥にしまっているような心の機微を思い出させてくれるエッセイです。
社会学者・小説家の岸政彦さんと、小説家の柴崎友香さんの共著です。
進学で大阪に移り住み以降ずっと大阪在住の岸さんと、大阪で生まれて30歳を過ぎてから大阪を出た柴崎さん。大阪への思いを綴った両者のエッセイが交互に続く1冊。とても読みやすく、風景や人々、そして著者の心情が分かりやすく伝わってきます。
とくに柴崎さんのエッセイにビシバシとシンパシーを感じました。大阪の工業地帯に生まれ、80〜90年代関西カルチャーに浸かった青春を過ごした柴崎さんのエッセイには、「中島らも」「4時ですよ〜だ」「メンバメイコボルスミ11」「テアトル梅田」といったワードがちらほら。
私は柴崎さんと世代が違ううえに出身も関西ではないため、後追いで知った憧れのワードです。
大阪の工業地帯の商店街、自転車で向かう2丁目劇場、ミニシアター、ライブハウス、大丸など、読むだけで憧れの場所と時代を追体験できるような楽しさがあります。
都市への思い。そこにいる人への思い。街はそのまま人と重なり合う。人が街をつくり、街は人を育てる。
感情は一筋縄ではいかないものです。0か100では図りきれない。過去は憧憬や感傷だけじゃなく、家族も親愛や情愛だけじゃない。好きも嫌いもそれ以外も全部ふくめた上で、対象のことを思っている。
大阪出身で、大阪で心が彩られるような幸せな場面があったからこそ、大阪に異議を唱えたくもなる。柴崎さんの大阪への思いを読んで、ジョン・レノンの名言「ポールの悪口を言っていいのは俺だけだ」を思い出しました。
柴崎さんは愛憎を正直に書き表すことで、真摯であろうとしているように思えました。「この人のエッセイは信頼していい」と感じ、そのことがとても嬉しくなりました。信頼できる作家さんに出会えることは嬉しいことです。
小川雅章さんのカバーイラストも最高です。