実在する「算法少女」という江戸時代の書物は、とある父と娘により書かれた和算(当時の日本の数学)の書。この「算法少女」に着想を得た著者による、同じ「算法少女」というタイトルをつけた少年少女むけの時代小説です。児童文学なのでとても読みやすく、学問に打ち込むことの豊かさを感じることが出来ます。
個人的には、作中に出てくる数式で謎をとくような、数学ミステリ的からくりがあればさらにワクワクするストーリーになったかもと思いましたが、江戸人情にあふれているとてもいい物語です。江戸の町の楽しさだけでなく、宗派によって学問が分断されることや、育ち・身分で人間が分断されることの悲しさも自然に描かれます。主人公のあきが、屋敷通いの指南役でなく市井の塾講師を選ぶことで、本当に豊かであることとは何かを教えてくれます。
文庫版あとがきに、この小説版「算法少女」復刊をめぐる経緯が書かれているのですが、そのリアルストーリーが、本編のフィクションと重なるような不思議さを感じます。江戸期代に「算法少女」をしたためた娘とその父。本編の主人公あきとその父、そして著者とその父。3組の親子が、時空とフィクションの壁を超えてひとつに重なるのです。事実は小説より奇なりと言いますが、まさに小説になるような奇跡にため息がもれました。