執筆時80歳ちかいおじいちゃんである筆者の、12坪の庭先農場で奮闘する日常が飄々とユーモラスに語られるエッセイです。
とても好みの作品でした。文体も、著者の目線や感受性もすごく刺さりました。エッセイの好みとしてはストライクです。家庭菜園に興味が1ミリもなくても楽しめること請け合いです。
目線は至極フラットです。きっとそもそもの素質もあるのかもしれませんが、作物や畑の環境、そして季節の移り変わりに気を配る農業を楽しむ筆者は、万物を「観察」の目線でフラットに眺めているのかもしれません。自然や他人にはもちろん、自分に対してもフラット。カッコつけが一切ありません。野菜を、やってくる害虫を、ホームセンターの店員を、著者の家人を、すべてフラットに観察しています。
文体は「だ・である調」ですが重さはなく、柔らかさを感じつつ丁寧な描写。
しかし描写が律儀なほど丁寧すぎて、それが独特なユーモアを生んでいます。そしてユーモアが80ちかい爺さんのそれじゃなく、20代の方でも「ふふ」と笑いながら読めるのではないかと思うほどです。
話が横道にそれたままになって文字数が尽きたり(連載であったため)、自分でもそれを自覚して無理やり話を戻したりと、半ばお家芸のような「果てしない余談」がまた面白い。自分に素直すぎて余談にページを割いてしまう可愛らしさ。シビンの使用法、一目惚れで買った耕運機を買ったまま使わない理由さがし、シオカラトンボの交尾などの笑える余談に大いに楽しませてもらいました。
伊藤礼さんをこの作品で初めて知りましたが、いま一番友達になりたいおじいちゃんです。
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