俳優、デザイナー、エッセイスト、映画監督……マルチ才人の頭のなかを覗きに『伊丹十三記念館』に行った


先日愛媛に行く機会があり、こんなチャンスはめったにないとばかりに、以前から行ってみたかった『伊丹十三記念館』へ行ってきました。愛媛県松山市は伊丹さんが高校時代を過ごした地であり、彼の父、伊丹万作の出身地です。松山の銘菓一六タルトのCMを製作・出演したことがきっかけで、のちの伊丹プロダクション社長・玉置泰さんと出逢い、彼の出資で映画監督デビュー作『お葬式』ができることも考えれば、松山の地がいかに伊丹さんと所縁があるかが分かるかと思います。

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伊丹十三記念館

松山の街を通る国道からわずかに外れた細い川のほとりに、突如としてシックでモダンな建造物が現れる。入口そばの車庫には伊丹さんの愛車ベントレー・コンチネンタルが。ここが伊丹十三記念館。異世界に訪れたようで、耳では聞こえるはずの国道そばの喧騒をすっぱり遮断させられるような、力のある佇まいでした。

僕が「イタミジューゾー」という言葉を知ったのは、小学校低学年の頃にTVで見た、ご存知大ヒット作『マルサの女』がきっかけでした。子どもだったので内容はハテナ? でしたが、宮本信子のおかっぱ頭が印象的で、有名なメインテーマも子供心に「へんてこな音楽だな」と思いつつ強烈に耳に残っていました。今考えると普段耳馴染みのない5拍子のリズムなんですが、当時幼かった僕といとこが、例のサックスのメロディーに勝手に歌詞を付けて歌っていたほど、実はキャッチーでよくできた楽曲だったんだなあと気付きました。

伊丹十三は1933年京都府生まれ。1954年商業デザイナーとして働きはじめ、「世界一美しい明朝体」と評されるほどにレタリングに定評がありました。その後俳優となり外国映画にも出演、傍らではエッセイストとして活動。中でも、現在のように本格イタリア料理を出す店が日本になかった当時に「スパゲッティは“うどん”ではない」として正調な調理法を説く『スパゲッティのおいしい召し上がり方』は有名です。1970年代にテレビマンユニオン参加、テレビ製作の手法を学ぶ。精神分析や現代思想にも接近し、1981年に思想雑誌『モノンクル』を創刊します。そして1984年に映画監督としてデビュー。第1作『お葬式』は高い評価を受け、その後も『マルサの女』、『ミンボーの女』などヒット作を産み、日本を代表する映画監督になります。

伊丹十三監督以上の相当に簡略化した略歴を見ただけでも、そのマルチ・プレイヤーっぷりに驚くばかりです。その他にも伊丹さんが小学校一年の頃に描いた野菜の絵を、父万作の友人だった俳人・中村草田男が貰っていっただとか、バイオリン演奏、ギター演奏が趣味であっただとか、食べるだけでなく作る方も得意だったほどに料理通で、こだわりが強すぎるあまり、納得のいく卵焼きができるまで毎日卵焼きを作り続けたとか。

伊丹さんの作品に触れ上記のようなエピソードを知るうちに、マルチな才人・伊丹十三の頭のなかに興味が惹かれた僕としては、松山へ来たチャンスを逃すわけにいきません。

伊丹十三記念館の間取り図にもなっているパンフレット。
伊丹十三記念館の間取り図にもなっているパンフレット。

常設展では、幼少期から映画監督時代までの伊丹さんの生きてきた足跡を辿ることができます。少年時代のスケッチ画や、レコードコレクション、愛用の楽器、今では見られない伊丹さん出演のTVドキュメンタリー映像やCM映像、映画の絵コンテなど、貴重な資料が展示されていて、ファンなら時間の許す限り楽しめることでしょう。カフェも併設されており、そこには『タンポポ』のポスターに使われた伊丹さんが描いた出演者のデッサン原画が飾ってありました(注文せずとも、「閲覧のみでも入店できますよ」と店員さんが招き入れてくれました)。BGMに『マルサの女』のメインテーマが流れていて、おしゃれなカフェとサックスの力強い調べのミスマッチさが面白かったです。ここでコーヒーでも飲んだら、『マルサの女』の序盤、宮本信子さんとマッハ文朱さんの喫茶店の内偵シーンの気分を少し味わえるかもしれません。

伊丹十三記念館ガイドブック。表紙は2種類あります。物販スペースで購入すると、特製カバーが付きます。
伊丹十三記念館ガイドブック。表紙は2種類あります。物販スペースで購入すると特製紙カバーが付きます。

伊丹さんの頭のなかを覗いてみたくて訪れた記念館でしたが、結果ますます伊丹十三の守備範囲の広さ、才能のカオスっぷりを知ることとなり、しかしこれは僕にとっては嬉しい混乱です。いつまでも知り得ないからこそファンとしての興味は尽きず、ますます知りたくなって情報を見聞きし、知識欲を満たす気持ちよさにこれからも浸れるわけですから(どんなジャンルでもファンってエゴイストですよね、そのくせ飽きたらスッパリですから)。伊丹十三監督ファンの方、愛媛県松山市においでの際は、ぜひ! その後は道後温泉で疲れを癒せば、最高の観光プランではないでしょうか。

グッズのマグネット。伊丹さんのイラスト入り。
グッズのマグネット。伊丹さんのイラスト入り。
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店員T

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基本なんでも広く浅く。たまに楽器も触ります。