“伝説の大道芸人” ギリヤーク尼ヶ崎『鬼の踊り 大道芸人の記録』

何年か前、夜更かししていた私は、目当てのTV番組もないままに深夜放送を適当にザッピングしていたが、コロコロと画面が切り替わる中でとあるドキュメンタリー番組に眼を奪われた。街頭で、白塗りをしたお爺さんが長い髪を振り乱し、着ている和服が乱れんばかりに踊り狂っている様子が画面に映しだされたのだ。ついにお爺さんはフンドシもあらわな半裸状態になり、路上に転がった。お爺さんをぐるりと取り囲む人だかりから拍手喝采が浴びせられる。それは舞踏の公演だった。私はすぐにビデオの録画ボタンを押し、録画しながらもチャンネルはそのまま、番組から眼が離せなくなった。

ギリヤーク尼ヶ崎以上が “最後の大道芸人” と称されるギリヤーク尼ヶ崎氏を、私が初めて知った時の様子。深夜の偶然の出会いで度肝を抜かれ、興味を持って調べてみると、1930年北海道の生まれで、舞踏家であったが38歳の時に大道芸に転向。以来街頭での公演を続けているとのこと。主な演目は「念仏じょんがら」「じょんがら一代」など。伊丹十三監督の映画にも俳優として出演しており、「タンポポ」では舌の肥えたグルメなホームレス集団の一人を、「マルサの女」では山崎努氏に宝くじを売りつける役を演じていたと知った時には、あの役を怪演していた人が舞踏家だったとは! とさらに驚いた。 続きを読む “伝説の大道芸人” ギリヤーク尼ヶ崎『鬼の踊り 大道芸人の記録』

『鉛筆画文集 東京・昭和のおもかげ』

安住孝史さんの東京を描いた鉛筆画文集です。本当に精密に描かれていて見入ってしまいます。建物の描写が細かいのも凄いですし、影のグラデーションが綺麗でいいですね。絵とエッセイの他にも作者の描いていくプロセスも掲載されているのですが、消しゴムを使わないということに驚かされました。よく見ると細かく一本ずつ線を描いているのが分かりますが、その繊細な作業こそが素晴らしい作品を生み出しているんだと納得させられます。

鉛筆画文集 東京・昭和のおもかげ / 安住孝史 / 日貿出版社 / 2014
鉛筆画文集 東京・昭和のおもかげ / 安住孝史 / 日貿出版社 / 2014

東京・昭和のおもかげ3

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『わたしを離さないで』―静かで印象深い物語

『わたしを離さないで』。とてもストレートで、けれどひどく印象的なタイトルを冠するこの小説は、深く刻みつけられる、というよりは、胸の奥にこびりついて離れない、というような印象を読者に残します。

この小説は、『日の名残り』でイギリス最高峰の文学賞であるブッカー賞に輝いた作家、カズオ・イシグロの代表作のひとつで、その緻密な構成によって各国で高い評価を受け、映画化もされました。

わたしを離さないで / カズオ・イシグロ / 早川書房 / 2008
わたしを離さないで / カズオ・イシグロ / 早川書房 / 2008

語り手キャシー・Hの回想という形をとる物語は、あくまで静かに、どこか淡々とした印象すら漂わせて進んでゆきます。しかし冷たさはなく、むしろその静かさが、過去の温かさと、現在の、泣き喚くでもなく、強引に訴えかけるでもない哀しみをわざとらしさなしに伝えてくるのです。その傾向は終盤に顕著で、とくにラスト数ページに綴られる独白には心に迫るものがあります。

世界観の説明がいっさい行われないままに、「介護人」「提供者」「ヘールシャム」といった単語が当たり前のように次々と使われるので、はじめのほうで読者は取り残されたような感覚に襲われるかもしれません。しかし、それがかえって、それらの単語の持つ意味を知らなかった幼いころのキャシー達と同じ目線で物事を追わせ、作品に一層のめり込ませる仕掛けとなっています。

物語が精緻に構成されるあまりに、ストーリーを仄めかそうとすると読む楽しみを損なう恐れがあり、ここでは言及を避けますが、いわゆる「ひそやかな文学」がお好きな方は、ぜひ読んでみてください。もっとも、あまりに有名な作品なのですでにお読みになったという方も多いとは思いますが……。

当店では、ハヤカワ文庫のSF・ミステリ・海外文学の買い取り大歓迎です。出張買取も承りますので、お気軽にお問い合わせください

『サラリーマン川柳』

『サラリーマン川柳』は簡単に読めるし、すごく楽しいですよね〜。今回入ってきた本は傑作選で第4回からのベストテンも収録されているのですが、毎回その年に流行ったネタを入れたりして本当に上手いです! その中でも家庭での立場の弱いお父さんの悲哀は特に面白く好きです。笑えるくらいの自虐ネタっていいですよね。

サラリーマン川柳 よくばり傑作選 / やくみつる やすみりえ 第一生命 / NHK出版 / 2014
サラリーマン川柳 よくばり傑作選 / やくみつる やすみりえ 第一生命 / NHK出版 / 2014

当店では、サラリーマン川柳のような本から歴史、人文などの本までいろいろ扱っております。ぜひお立ち寄りください!

ウォルト・ディズニーの約束―メリー・ポピンズ誕生秘話

今回は、書籍ではなく映画の紹介をしたいと思います。

「ウォルト・ディズニーの約束」という映画をご存知でしょうか? あの名作ミュージカル映画「メリー・ポピンズ」の誕生秘話を描いた作品で、メリーを金儲けの道具にしたくないと映画化を拒否する原作者トラヴァース夫人と彼女の子供時代の回想、そして娘たちのために諦めず映画化の交渉を続けるウォルト・ディズニーを中心に展開してゆきます。この映画を観てから「メリー・ポピンズ」を観返すと、また新しい発見がありますよ。

大ヒットを記録した「アナと雪の女王」と同じ時期に公開されていたので、話題をさらわれてしまい、残念ながらあまり世間の評判にはならなかったのですが、観終わった後に満たされた気持ちになれる素晴らしい映画でした。

「ウォルト・ディズニーの約束」Blu-rayとサウンドトラック
「ウォルト・ディズニーの約束」Blu-rayとサウンドトラック

メインビジュアルで、ウォルト・ディズニーの影をミッキーに、トラヴァース夫人の影をメリー・ポピンズにしたアイデアに拍手を贈りたくなりますね。

サウンドトラックには、この映画オリジナルのすこしケルティックな音楽のほか「メリー・ポピンズ」でお馴染みの「チム・チム・チェリー」や「スーパーカリフラジリスティックエクスピアリドーシャス」もばっちり収録されています。聴いていると、映画の中で、トラヴァース夫人がシャーマン兄弟(音楽担当)に文句をつけたり和解したり夢中になって踊ったりしているシーンが思い返され、つい笑いがこぼれてしまうことも。

「メリー・ポピンズ」は今年の「新・午前十時の映画祭」の上映作品に入っていて、グループBの映画館ではちょうど始まったばかりです。土日も上映されているので、「メリー・ポピンズ」を映画館で観て、お家に帰って「ウォルト・ディズニーの約束」をテレビで観る、なんていう贅沢な一日もよいのでは? でも、「ウォルト・ディズニーの約束」を観るとまた「メリー・ポピンズ」を観たくなってしまうので、もしかすると休日だけでは足りなくなってしまうかもしれません。ストーリーや演出に派手さはないけれど、何度も繰り返し観たくなる、そんな温かくて素敵な作品です。

当店では、ディズニー映画のDVD・サウンドトラック・パンフレットの買い取り大歓迎です。出張買取も承りますので、お気軽にお問い合わせください