何年か前、夜更かししていた私は、目当てのTV番組もないままに深夜放送を適当にザッピングしていたが、コロコロと画面が切り替わる中でとあるドキュメンタリー番組に眼を奪われた。街頭で、白塗りをしたお爺さんが長い髪を振り乱し、着ている和服が乱れんばかりに踊り狂っている様子が画面に映しだされたのだ。ついにお爺さんはフンドシもあらわな半裸状態になり、路上に転がった。お爺さんをぐるりと取り囲む人だかりから拍手喝采が浴びせられる。それは舞踏の公演だった。私はすぐにビデオの録画ボタンを押し、録画しながらもチャンネルはそのまま、番組から眼が離せなくなった。
以上が “最後の大道芸人” と称されるギリヤーク尼ヶ崎氏を、私が初めて知った時の様子。深夜の偶然の出会いで度肝を抜かれ、興味を持って調べてみると、1930年北海道の生まれで、舞踏家であったが38歳の時に大道芸に転向。以来街頭での公演を続けているとのこと。主な演目は「念仏じょんがら」「じょんがら一代」など。伊丹十三監督の映画にも俳優として出演しており、「タンポポ」では舌の肥えたグルメなホームレス集団の一人を、「マルサの女」では山崎努氏に宝くじを売りつける役を演じていたと知った時には、あの役を怪演していた人が舞踏家だったとは! とさらに驚いた。 続きを読む “伝説の大道芸人” ギリヤーク尼ヶ崎『鬼の踊り 大道芸人の記録』