“伝説の大道芸人” ギリヤーク尼ヶ崎『鬼の踊り 大道芸人の記録』


何年か前、夜更かししていた私は、目当てのTV番組もないままに深夜放送を適当にザッピングしていたが、コロコロと画面が切り替わる中でとあるドキュメンタリー番組に眼を奪われた。街頭で、白塗りをしたお爺さんが長い髪を振り乱し、着ている和服が乱れんばかりに踊り狂っている様子が画面に映しだされたのだ。ついにお爺さんはフンドシもあらわな半裸状態になり、路上に転がった。お爺さんをぐるりと取り囲む人だかりから拍手喝采が浴びせられる。それは舞踏の公演だった。私はすぐにビデオの録画ボタンを押し、録画しながらもチャンネルはそのまま、番組から眼が離せなくなった。

ギリヤーク尼ヶ崎以上が “最後の大道芸人” と称されるギリヤーク尼ヶ崎氏を、私が初めて知った時の様子。深夜の偶然の出会いで度肝を抜かれ、興味を持って調べてみると、1930年北海道の生まれで、舞踏家であったが38歳の時に大道芸に転向。以来街頭での公演を続けているとのこと。主な演目は「念仏じょんがら」「じょんがら一代」など。伊丹十三監督の映画にも俳優として出演しており、「タンポポ」では舌の肥えたグルメなホームレス集団の一人を、「マルサの女」では山崎努氏に宝くじを売りつける役を演じていたと知った時には、あの役を怪演していた人が舞踏家だったとは! とさらに驚いた。

『鬼の踊り 大道芸人の記録 ギリヤーク尼ヶ崎』ブロンズ社『鬼の踊り 大道芸人の記録』(ブロンズ社、1980年)はギリヤーク尼ヶ崎氏が50歳の頃に発行されたもので、公演時の写真やそれまでの道のりを記した氏の著作だ。初めて路上で踊った時のことや、海外公演時の様子、旅の途中の徒然、お客さんとのやりとりまで心情豊かに細かく描写されていて、読み物としても楽しめる。路上での処女公演を終え、荷物をまとめて帰ろうとした氏の手のひらに50円玉を握らせて走り去った女子高生のエピソードは感動ものだ。帰路、バスに揺られながら50円玉が嬉しくて涙する当時の氏を応援したい気持ちになる。

ギリヤーク尼ヶ崎 井の頭公園TVで初めてギリヤーク尼ヶ崎氏を見た時、最初はまずその特異な出で立ちに私は興味を惹かれた。舞踏に対して無知な人間ならそんなもんだと思う。「変な爺さんだな」ただそれだけの印象で終わってもおかしくはない。しかし私の中に湧き上がった気持ちは、もの珍しさを面白がる好奇だけではなかった。TV画面の向こうから視聴者の価値観をぐわあっと揺るがすようなエネルギーが、私の心を掴んだのだ。あばらが浮き出るほど痩せ細った体からほとばしる強烈なエネルギー。お世辞にも生気に溢れるような外見とは言えない痩せたお爺さんが、「路上」という舞台装置と体ひとつでここまで非日常を作り出すことができることに驚いた。若い自分にできないことを、このお爺さんはやっている、やり続けている、と。

つい先日の8/30には、札幌での街頭公演が無事終了したとのこと。年内では10/12に新宿で秋期公演があるらしくぜひ観賞したいと思うがあくまで予定、御年85歳ということもあり体調により中止の可能性もある。体に十分気を遣いながらも、大道芸を続けてほしい。

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店員T

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基本なんでも広く浅く。たまに楽器も触ります。