『わたしを離さないで』―静かで印象深い物語

『わたしを離さないで』。とてもストレートで、けれどひどく印象的なタイトルを冠するこの小説は、深く刻みつけられる、というよりは、胸の奥にこびりついて離れない、というような印象を読者に残します。

この小説は、『日の名残り』でイギリス最高峰の文学賞であるブッカー賞に輝いた作家、カズオ・イシグロの代表作のひとつで、その緻密な構成によって各国で高い評価を受け、映画化もされました。

わたしを離さないで / カズオ・イシグロ / 早川書房 / 2008
わたしを離さないで / カズオ・イシグロ / 早川書房 / 2008

語り手キャシー・Hの回想という形をとる物語は、あくまで静かに、どこか淡々とした印象すら漂わせて進んでゆきます。しかし冷たさはなく、むしろその静かさが、過去の温かさと、現在の、泣き喚くでもなく、強引に訴えかけるでもない哀しみをわざとらしさなしに伝えてくるのです。その傾向は終盤に顕著で、とくにラスト数ページに綴られる独白には心に迫るものがあります。

世界観の説明がいっさい行われないままに、「介護人」「提供者」「ヘールシャム」といった単語が当たり前のように次々と使われるので、はじめのほうで読者は取り残されたような感覚に襲われるかもしれません。しかし、それがかえって、それらの単語の持つ意味を知らなかった幼いころのキャシー達と同じ目線で物事を追わせ、作品に一層のめり込ませる仕掛けとなっています。

物語が精緻に構成されるあまりに、ストーリーを仄めかそうとすると読む楽しみを損なう恐れがあり、ここでは言及を避けますが、いわゆる「ひそやかな文学」がお好きな方は、ぜひ読んでみてください。もっとも、あまりに有名な作品なのですでにお読みになったという方も多いとは思いますが……。

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ウォルト・ディズニーの約束―メリー・ポピンズ誕生秘話

今回は、書籍ではなく映画の紹介をしたいと思います。

「ウォルト・ディズニーの約束」という映画をご存知でしょうか? あの名作ミュージカル映画「メリー・ポピンズ」の誕生秘話を描いた作品で、メリーを金儲けの道具にしたくないと映画化を拒否する原作者トラヴァース夫人と彼女の子供時代の回想、そして娘たちのために諦めず映画化の交渉を続けるウォルト・ディズニーを中心に展開してゆきます。この映画を観てから「メリー・ポピンズ」を観返すと、また新しい発見がありますよ。

大ヒットを記録した「アナと雪の女王」と同じ時期に公開されていたので、話題をさらわれてしまい、残念ながらあまり世間の評判にはならなかったのですが、観終わった後に満たされた気持ちになれる素晴らしい映画でした。

「ウォルト・ディズニーの約束」Blu-rayとサウンドトラック
「ウォルト・ディズニーの約束」Blu-rayとサウンドトラック

メインビジュアルで、ウォルト・ディズニーの影をミッキーに、トラヴァース夫人の影をメリー・ポピンズにしたアイデアに拍手を贈りたくなりますね。

サウンドトラックには、この映画オリジナルのすこしケルティックな音楽のほか「メリー・ポピンズ」でお馴染みの「チム・チム・チェリー」や「スーパーカリフラジリスティックエクスピアリドーシャス」もばっちり収録されています。聴いていると、映画の中で、トラヴァース夫人がシャーマン兄弟(音楽担当)に文句をつけたり和解したり夢中になって踊ったりしているシーンが思い返され、つい笑いがこぼれてしまうことも。

「メリー・ポピンズ」は今年の「新・午前十時の映画祭」の上映作品に入っていて、グループBの映画館ではちょうど始まったばかりです。土日も上映されているので、「メリー・ポピンズ」を映画館で観て、お家に帰って「ウォルト・ディズニーの約束」をテレビで観る、なんていう贅沢な一日もよいのでは? でも、「ウォルト・ディズニーの約束」を観るとまた「メリー・ポピンズ」を観たくなってしまうので、もしかすると休日だけでは足りなくなってしまうかもしれません。ストーリーや演出に派手さはないけれど、何度も繰り返し観たくなる、そんな温かくて素敵な作品です。

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―文庫版とは違った魅力を―『はみだしっ子 愛蔵版』

こんにちは、以前紹介させていただいた『はみだしっ子』、その愛蔵版を先日手に入れることができ、幸福感で満たされている店員Nです。

文庫版のカバーにはモノクロのイラストが使われているので(あれはあれで素敵ですが)、キャラクターの眼や髪の色、着ている服などの色合いが、はじめて読んだ読者にはわかりませんでした。この愛蔵版では表紙・裏表紙やカバー袖、最初の数ページがフルカラーで、気になっていたそれらの情報を知ることができ、とくに最近はまったというファンにはたまらない豪華さです。

さらに、文庫版では、話のタイトルを活字で組んだページがまずあって、その次のページに本来のタイトルページのイラスト、となっていたのが、愛蔵版ではしっかり、タイトルとイラストが組み合わさった元のタイトルページのデザインになっています。70年代少女漫画のレトロなタイトルロゴが好き、という方は必見。

〈愛蔵版〉はみだしっ子【全集】 第1巻 / 三原順 / 白泉社 / 1992
〈愛蔵版〉はみだしっ子【全集】 第1巻 / 三原順 / 白泉社 / 1992

はみだしっ子愛蔵版3

2枚目の写真のような見開きのカラーページの絵は、おそらく雑誌連載当時のものか愛蔵版のための描き下ろしだと思われます。どちらにしても、文庫版から読みだした人にとっては初めて見るイラストなので、愛蔵版ならではのうれしいところですよね。ちなみに、作中でたびたび言及されるアンジーの私服センスは、カラーになるといろいろな意味で際立ちます。そして反対に、作者様に「髪の色:黒、眼の色:黒、好きな服の色:黒」、と断言されているグレアム、あまり変わらない……。

残念なことに絶版になっているので、入手手段は古書店かオークションあたりに限られてしまいますが、この作品が好きならとても楽しめる一冊ですので、ぜひ探してみてください。

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お菓子作りで、幸せなひとときを

仕事や課題を片付けてやっとできた休日。ムダにはしたくないけどとくにすることもない、というときは、お菓子作りなんていかがでしょう?

お菓子作りは、作って楽しい、食べておいしい、まさに一挙両得です!! バレンタインくらいしか手作りしない……という方もいらっしゃるかとは思いますが、時間があるのならこれほどいろいろな意味で生産的な行為もそうありません。単純においしいお菓子ができるというのはもちろん、そのお菓子を食べる人の思い出にも残るのです。私も、小さな頃に母が焼いてくれたマドレーヌの味をよく思い出します。手作りのお菓子って、とてもやさしい味がするんですよね。

洋書のようなシンプルクッキーとケーキの本 / 西岡知子 / 主婦と生活社 / 2012
洋書のようなシンプルクッキーとケーキの本 / 西岡知子 / 主婦と生活社 / 2012

写真のレシピブックは、私がここ数年お菓子作りをするときに一番助けてもらっているものです。見た目も味もばつぐんのお菓子のレシピがたくさん載っていて、「洋書のような」というだけあり装丁もとてもお洒落。レシピの名前はみんな「TOMBOY(おてんば娘の)ケーキ」というようにお茶目でかわいらしく、それぞれの章にまで「憧れの国のお菓子」「おばあちゃまから教わったお菓子」等とっても素敵な名前がつけられているんです。ページを捲ってお菓子の写真を見たり、それぞれの章とレシピに添えられている数行のメッセージを読んだりしていると、作る前からもうわくわくしてきます。

「おばあちゃまから教わったお菓子」の章にある「永遠のシュークリーム」というのが、一度にたくさん作ることができて、しかも手作りならでは!! という味がするので、家族みんなで食べたり、お友達に配ったりするのにもってこいなのです。とても喜んでもらえますよ!!

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『ジゼル・アラン』5巻発売!!

今回は紹介というより速報ですが、以前こちらで紹介させていただいた『ジゼル・アラン』の第5巻が、7月15日に約2年ぶりに発売されました。

ジゼル・アラン 第5巻 / 笠井スイ /  エンターブレイン / 2015
ジゼル・アラン 第5巻 / 笠井スイ / エンターブレイン / 2015

平積みにしている書店も多く見られ、続刊を待ち望んでいた読者の数が窺い知れます。

前の巻ではジゼルとエリックの再会という気になる場面で終わっていた本編もさらなる盛りあがりをみせ、番外編では、主人公ジゼルがなぜ「何でも屋」をはじめたか、そのきっかけを知ることができます。登場人物の深みや魅力はもちろん、絵の緻密さ・繊細さにも一層の磨きがかかり、さらに『ジゼル・アラン』を好きになる一冊です。

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