『少女への手紙』―アリスの作者・キャロルの愛

ディズニーのアニメーション映画をはじめとして、さまざまなメディアで展開し、今なお世界中の人々に愛されている『不思議の国のアリス』。このお話はもともと、作者ルイス・キャロルが、たったひとりの女の子アリス・リデルのために即興で作ったものでした。

どこまでも「少女」という存在を愛し、彼女たちを、物語の主人公ばかりでなく、写真の被写体にもしばしば選んだキャロル。そんなキャロルが、作家仲間の娘や自身の作品の愛読者など、じつに多くの少女に宛てた手紙を集めて編まれたのが、今回紹介させていただく『少女への手紙』です。

少女への手紙 / ルイス・キャロル / 平凡社 / 2014
少女への手紙 / ルイス・キャロル / 平凡社 / 2014

扉ページをめくると、そこにはまず物腰に品のあふれる男性の写真。キャロル25歳のときのものです。次のページからはキャロルの撮影した少女たちの写真が並び、その次に遊び心満載のアクロスティック(折り句)、そして目次、本文、いえ、本手紙? とつづきます。

相手が少女であろうと容赦のない、けれどからかうような優しさの感じられる、ウィットに富んだ手紙には、キャロルの人柄がそのまま表れているよう。宛先によって態度がすこしずつ違っているのも、それぞれの少女とキャロルの関係性を想像する楽しみをあたえてくれます。勝手に想像される側からすると業腹かもしれませんが、そこは許してもらえることを祈りましょう。

温かな愛情にあふれ、読んでいて自然と微笑が浮かんでくる。そんな陽だまりのような、まさに「黄金色の昼下がり」(キャロルがアリスらリデル家の三姉妹とボートに乗り『不思議の国のアリス』を生みだした日の陽気は、このように表現されます)のような一冊です。

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『アルスラーン戦記』―戦記物の王道!!

『鋼の錬金術師』の荒川弘先生と、『銀河英雄伝説』の田中芳樹先生がタッグを組んだ、コミック版『アルスラーン戦記』。つい2週間ほど前まで、これを元にしたアニメ版が、日曜日5時からの枠で放送されていました。

アルスラーン戦記 第1巻 / 漫画・荒川弘 原作・田中芳樹 / 講談社 / 2014
アルスラーン戦記 第1巻 / 漫画・荒川弘 原作・田中芳樹 / 講談社 / 2014

1巻の巻末に収録されている両先生の対談のなかで荒川先生は、はじめて原作をお読みになったときのことを思い返して、『三国志』が好きだからかぐいぐい惹きこまれた、というようなことを仰っています。小野不由美先生の『十二国記』あたりがお好きな方にとっても、たまらない作品なのではないでしょうか。

作中の「正義」や「王」についての考え方に、どことなく『鋼の錬金術師』に通じるものを感じ、コミカライズをなさっているのが荒川先生でよかったなぁと思います。メディアミックスにありがちなぎこちなさがなくて、キャラクターがいきいきしている。

そして、読んでいてもっとも印象に残ったのは、軍師ナルサスから王太子アルスラーンに伝えられた「他人にも大切なものがある」「それを理解しないのは蛮人」という言葉。この言葉をしっかりと胸に留めておくだけで、さまざまな諍いが解決しますよね……。それが難しいのかもしれませんが。

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百年文庫―全巻揃えたくなる美しさ

「百年文庫」。全100巻からなるこのアンソロジーは、それぞれの巻がタイトルに漢字一文字を戴いており、『嘘』なら宮沢賢治「革トランク」ほか1篇・与謝野晶子「嘘」ほか1篇・エロシェンコ「ある孤独な魂」ほか3篇というように、3人の作家の、漢字の意味やイメージに合う短編がいくつか収録されています。

百年文庫62 嘘 / 宮沢賢治・与謝野晶子・エロシェンコ / ポプラ社 / 2011
百年文庫62 嘘 / 宮沢賢治・与謝野晶子・エロシェンコ / ポプラ社 / 2011

漢字一文字をタイトルに、という斬新で素敵な思いつきもさることながら、作家を3つの星に見立て、星座を構成させるという発想には、心の底から感服させられました。こんなアイデア、どこから湧いてくるのでしょう?

さらにこのシリーズ、複数冊集めて番号通りに並べると、背表紙のタイトルの下にあるマークと帯の色がとても美しいグラデーションを織り上げるのです。書店や図書館に全巻並べられている様はまさに壮観、つい全巻揃えたくなってしまいます。カバーを外しても、その下にはオリジナルの版画が……。ほんとうに隅から隅までこだわった装丁で、眺めているだけでも幸せな気持ちになれます。

100冊集めるのは、お財布的になかなか厳しいものがありますが、いつかは全巻揃えてみたいものです。

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『ARIA The AVVENIRE』―ARIA劇場版公開!!

以前紹介させていただいた、天野こずえ先生の『ARIA』。そのアニメ十周年を記念して制作された劇場版アニメ『ARIA The AVVENIRE』が、昨日ついに公開に!!

そしてこの日を待ち望んでいた私・店員Nはなんと、友のおかげで公開初日の舞台挨拶つきの回を鑑賞してくることができました。私自身は3月頃にはじめて原作を読んだ新参ファンなので、場を埋めているのはテレビ放映当時からのファンの方々ばかりであろう舞台挨拶にはすこし尻込みをしてしまっていたのですが、ARIAファン歴の長い友人がチケットを私の分までとってくれたのです……。やはり持つべきものは友。

『ARIA THE AVVENIRE』入場者プレゼント ミニ色紙
『ARIA THE AVVENIRE』入場者プレゼント ミニ色紙

もしかすると、12月から発売が始まるTVシリーズのBlu-ray BOXに収録予定であるかもしれませんので、舞台挨拶での監督やキャストのみなさんの発言への詳しい言及は避けますが、「私達ちょっと(ARIAが好きすぎて)おかしいんです、病気なんです」というひとつの発言だけでも(細かいところはうろ覚えですが、大体の意味は間違っていないはず)、どれだけARIAを大切に思っていらっしゃるのか、これでもかと伝わってきました。

そんなスタッフとキャストのみなさんが全力をそそがれた作品ですので、映画本編のほうももちろん、ARIAという作品、そしてアテナ役の亡き川上とも子さんへの愛と思いがありったけつまった、まさに「ステキ」としかいいようのない作品に仕上がっています。

十年も前のアニメである『ARIA』の劇場版が今制作されたことは「奇蹟」であると、舞台でみなさんが仰っていました。この奇蹟に感謝をこめて。

『ずっとお城で暮らしてる』―本の形をした怪物

今回紹介させていただくのは、シャーリイ・ジャクスンの『ずっとお城で暮らしてる』です。前回の『わたしを離さないで』に続き、タイトルの印象的な作品を選んでみました。

作者シャーリイ・ジャクスンは、どちらかというと恐怖小説で有名な人物のようですが(代表作『たたり』でスティーヴン・キングに激賞されたという経歴の持ち主)、この作品にはホラー要素はほとんど含まれていないので、そちらの方面が苦手な方でも楽しめると思います(いや、微かに、含まれている、かも……? 以下のあらすじを読んで平気なら大丈夫なはず )。

あらすじを簡単に述べると、「主人公メアリ・キャサリン・ブラックウッド(メリキャット)は、彼女の父母や親類を毒殺したと目される姉・コンスタンス(コニー)と、生き残った伯父・ジュリアンとともに周囲から隔絶された屋敷で幸せに暮らしていた。しかし、ある日突然そこに闖入者が現れ、彼女たちの〈美しく病んだ世界〉は崩れてゆくが……? 」という具合です。

カバー裏表紙の作品説明には「悪意に満ちた外界に背を向け、空想が彩る閉じた世界で過ごす幸せな日々」とあり、この説明文からすでに、桜庭一樹が「本の形をした怪物」と評した、この作品の独特の雰囲気が漂ってきます。花でいうならジギタリスのような、あの、観賞用に栽培されるくらい綺麗なのに猛毒のある感じ。

ずっとお城で暮らしてる / シャーリイ・ジャクスン / 東京創元社 / 2007
ずっとお城で暮らしてる / シャーリイ・ジャクスン / 東京創元社 / 2007

作中に「メリキャット お茶でもいかがと コニー姉さん/とんでもない 毒入りでしょうとメリキャット」ではじまる歌がでてくるのですが、この歌、解説を読むに、すこし違った訳のバージョンで曲がついているようですね。歌ってみたいような、みたくないような。

かなり癖があり、人を選ぶ作品ではありますが、ピンときた方はぜひ読んでみてください。

ところで、ここ数年の疑問なのですが、創元推理文庫で文庫化される作品って、どういう基準で選ばれているのでしょう。「推理」要素が、ないとは言えないにしても、ほとんどないに等しい作品が結構選ばれている気が(桜庭一樹の『赤朽葉家の伝説』であったり、J.M.スコットの『人魚とビスケット』であったり、この『ずっとお城で暮らしてる』であったり)。読み終えたあと、つい「“推理”……? 」と首をかしげてしまうんですよね。まあ、結果としておもしろい作品を揃えてくれているので、文句はないのですが。

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