家庭料理の精神性を人々に気づかせたことが、土井善晴先生の、そしてこの本の偉業だと思います。
誰がつくっても美味しいレシピや、時短料理術、目新しい調理法などといったテクニック以外の部分である、精神や思想。アニミズムやわびさび等といった日本の自然や文化と、かたや生活感満載の「ウチの台所」が直結するなんて今まで思いもしなかった。そういった高尚な考えはプロの世界、懐石料理や料亭の板前さんのもので、家庭料理とは無縁だと。
家事に追われる人は「そんなことより実用的な調理法をおしえてよ」と普通は思うのでしょうが、「でも土井センセが言うてはるんやから」と振り向かせるだけの親しみやすさが土井先生の強みです。
季節や風土、わびさびを感じながら、手間をかけず素材そのものを生かして食べること。キレイに整えた状態で食べること。料理をつくって食べるまでの行為全体を通して感じる「心の気持ちよさ」のあとに、「味覚の気持ちよさ」すなわち「おいしさ」はやってくるのかもしれないなと思いました。
土井先生の言説からあらたな気づきもありました。
肉は、繊細な和食文化では扱いきれないほどに快楽的なうまみがあり、それを禁じなければ和食文化は持続できなかった、ということ。
素材をいかすのであれば、味は「うけとる」ほかなく、むやみにコントロールできることではない、ということ。
なるほどなと思いました。