戦前戦後のとある新興宗教の興亡を描いた長編小説です。
宗教とは?信仰とは?政治とは?農業とは?社会とは?権力とは?戦争とは?国家とは?、、、それらについての作者の考えが重厚な筆致を通じて伝わってきます。そしてそれらが個別のものではなく、現実がそうであるように、深く絡み合い影響しあいながら物語は強い推進力をもって展開し、読み進めるたびに圧倒されます。
作者の知識、思考、思想、哲学のすべてをぶつけた壮大なスケール。教団内の風習など、設定のディテールも凝ってあって、(モデルにした教団があるにしても)作者の頭の中に存在するものとは思えないほどのリアリティ。
無駄なキャラ、無駄なシーンは一切ありません。すべてのキャラに生きてきた背景が見えるし、全てのシーンには「伏線」なんて小手先の表現技術は不要で、歴史としてごく自然に繋がりがあるのを感じます。そして風景が何よりも雄弁に人の心情を語ってくれます。思わずため息がもれるような叙情的な叙景文?がそこかしこにあります。
分厚い文庫の上下巻あわせて約1200ページに字がびっちり、しかも硬質な純文学に不慣れな自分には難しい文体で、上下巻読了まで一ヶ月かかったけど、極端な展開もあるし魅力的なキャラ揃いだし、エンタメ性も強いと思います。ところどころに埋められている「初見の単語によるつまづき」「理屈ぽくて回りくどい表現による停滞」程度では物語の爆進力は損なわれず、最後まで楽しめました。登場人物が読者の頭の中で勝手に動き出すのを感じるくらいまで慣れてきたら、あとはどんどん世の中が動いていくのを目で追うだけです。現に上巻の序盤を読み進めて消化するのが一番時間がかかりました。
自分に宗教、哲学、思想的な素養はないのでほとんどエンタメとして消化することしかできてないと思ってますが、新興宗教を舞台にした大河ドラマとしてとても面白かったです。
余談ですが、新井英樹の漫画『キーチ!!』『キーチVS』と共通する部分が多くありますので、一方を読んだことがない方はぜひ両方読んでみていただきたいと思います。
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