『カードキャプターさくら』に『X』、『ツバサ-RESERVoir CHRoNiCLE-』に『ちょびっツ』と、多彩な作品を発表しつづけ、幅広い読者層から絶大な支持を得ている4人組の漫画家CLAMP。今回は、そんな彼女たちの作品の中ではあまり知られていない傑作、『CLOVER』を紹介させていただきたいと思います。
画面構成や会話のリズムといったところに美点のある作品なので、あらすじだけまとめて紹介するのは不粋なのですが、とりあえずざっとかいつまんでみると、このような流れ。退役軍人である琉・F・和彦は、かつての恩人から依頼され、とある少女を彼女の望みの場所である「妖精遊園地」へ送りとどけるという役目を引きうけます。「しあわせになりたい」「だから連れてってここじゃないどこかへ」というフレーズの繰り返し登場する、和彦の亡き恋人・織葉の歌を口ずさみつづける少女・スウ。なぜ彼女は幽閉されていたのか、なぜ織葉の歌に執着するのか、なぜ壊れた遊園地へ行きたいのか。多くの謎をかかえたまま、彼らは目的地にたどり着き、そして……。
『CLOVER』は、とても独創的な作品です。まず挙げられるのが、思いきったコマ割り。余白、というかコマに囲まれていない部分があまりに広く、コマの中で物語が進行するというよりは、登場人物や背景・小物へのスポットライトとしてコマが使われている、といった風情があります。つぎに、異様に細かく振られたタイトル。目次をひらくと、「葉」「森の中の小さな翼」「歌う少女」ほか21題がずらっと並べられており、本編を読みすすめると、平均して5ページほど、短ければ見開きの左右両方にというペースで読者の目にはいってくるこの題は、一般的な読み物で使われるような「章題」ではなく、もはや場面タイトルとでも称するのがふさわしいものとなっています。
イラストに着目してみると、トーンを使わず白黒ベタのみで塗ることで、どきっとするほどまっすぐに印象を叩きつけてくる画面が作りだされ、そのシンプルさが却って不思議な雰囲気を漂わせます。そういった面では、『xxxHOLIC』に近いところがあるかも……? そして、話の構成。ひとつの物語(たとえば和彦とスウの)が幕を閉じると、そこに登場した人物にまつわる過去が描き出され、その話がおわるとまた別の人物の過去が……といった具合に、「現在」から「過去」へ、糸をたぐるように時間軸を遡って話が展開されるのですが、彼ら彼女らに待ちうける結末をすでに知っている読者には、登場人物たちとはまったく違う視点が与えられ、それによってさらにこの作品のもつ不思議な印象が強められるのです。
2008年には全2巻の新装版も出たようですが、個人的には全4巻の旧版のほうがよかったなあと思ってしまいます……。スウと和彦を追う1・2巻、和彦と織葉の過去を描く3巻、そして、てっきり名脇役にとどまると思われた銀月と藍の出会いを、なんと丸一冊つかって描く4巻、とそれぞれの人間模様が巻ごとに収まりよくまとまっているので。とくに3巻、4巻は別々の冊子で持っていたい気持ちが……ううん、悩ましい。
この作品、今のところは完結扱いとなっていますが、CLAMPさんが続編執筆のご意思を表明されているので、いつか続きを拝むことができるかもしれません。とはいえ、4巻まででも十分に楽しめますので、すこしでも興味をもってくださった方はぜひお読みになってみてください。