『珍世界紀行 ヨーロッパ編―ROADSIDE EUROPE』

ヨーロッパの各地にある奇妙な場所をたくさん紹介している本です。処刑や拷問などの蝋人形が展示されている博物館などが載っていて、衝撃的な写真が多数あります。店員Sは写真で見るのが精一杯で、現地には行きたくない場所ばかりです。イタリアにあるスペーコラという所は動物と人間の解剖模型が展示されているのですが、小学校の課外授業にも使われているみたいです。本当にトラウマにならないといいのですが。他にも動物の剥製でファンタジーな世界を作り展示している場所なども紹介されていて、少しですがほのぼの出来るページもあります。かなり刺激的な本ですが、このような世界もあるのだと知ることが出来る一冊です。

珍世界紀行 ヨーロッパ編―ROADSIDE EUROPE / 都築響一 / ちくま文庫 / 2009
珍世界紀行 ヨーロッパ編―ROADSIDE EUROPE / 都築響一 / ちくま文庫 / 2009

当店では、旅や紀行文などの書籍なども取り扱っております。ぜひご来店くださいませ。

『倒立する塔の殺人』―花の腐臭をただよわせる愛憎劇

先だって文化功労者に選出された皆川博子さんですが、彼女の小説をお読みになったことはありますか? もしや、ミステリーという言葉から謎解きを連想して、「そういうのはちょっと……」と敬遠なさっている方もいらっしゃるのだろうか、とふと思いましたので、皆川作品への入門書として、先生の中ではおそらくかなり親しみやすい部類にはいるであろう『倒立する塔の殺人』を紹介させていただくことにします。

倒立する塔の殺人 / 皆川博子 / 理論社 / 2007
倒立する塔の殺人 / 皆川博子 / 理論社 / 2007

かなり大雑把にまとめてしまうと、3人の少女たちが戦時下の女学校で交流を深めるが、突然にそのうちの1名が失踪、1名が死亡してしまう。遺品となった連続小説『倒立する塔の殺人』をほぼ唯一の手がかりとして、のこされた少女は、語り手である主人公とともに、憧れていた先輩の不自然な死の謎の解明にのりだすが……? といった話の運びです。

たしかに謎解きの要素はありますが、一種の恋愛小説でもあり、昭和の少女小説にしばしばみられた、女学校の上級生と下級生が結ぶ擬似姉妹関係、すなわち「S(エス)」の要素もふんだんに取りいれられている(実際、この言葉が小説のなかで使われている)ことから、そういったジャンルの小説として捉えることもできます。探偵が事件を解決していく、というようなものとは、またすこし毛色が違うのです。皆川先生のほかの作品、たとえば『薔薇密室』や『冬の旅人』といったものにしてもそうで、謎をいかに解明するか、というよりは、舞台設定や登場人物たちの性格や関係性の描写、全体を通した雰囲気づくりに重きが置かれているように個人的には感じます(だからといって、謎解き部分もけっして手を抜かれていない、というのがまた凄いところ)。

ちなみに、あらすじでも述べたように、作中にはこの小説と同題の本が登場するのですが、その本がどう描写されているかというと、「模造革の背表紙に孔雀模様のマーブル紙の表紙、中のページは白いこの本」。もうお気づきかと思いますが、『倒立する塔の殺人』の装丁は、これを模しているのです。小説の中にその本が登場する、というのは、ファンタジー小説やホラー小説などでよく使われる手法ですが、装丁まで合わせてくるとは……。単行本の特権である装丁の自由さがフルに活かされています。こだわり抜かれた本は、つい手元においておきたくなりますよね。

また、『白痴』『罪と罰』や『カラマーゾフの兄弟』、「アリョーシャ」「ラスコーリニコフ」など、皆川先生の、ロシア文学というかドストエフスキー好きを覗わせる単語がポロポロとでてきて、すこしくすっとしてしまいます。ファンの間では先生のドスト好きは有名で、あの陰鬱のさなかでこそ輝く美しさなど、影響をうけたのだろうなあ、というのは読んでいてひしひしと伝わってきます。皆川先生を愛読している友人に、以前紹介させていただいた『青年のための読書クラブ』を貸してみたところ、この本に雰囲気が似てるね、というような感想をもらい、ドストエフスキー好きの皆川先生の作品にドストエフスキーと、皆川先生のファンである桜庭一樹さんの作品に皆川先生と似た雰囲気が漂っているということで、受け継がれてゆくものを感じてわくわくしてしまいました。

「美しく青きドナウ」や「流浪の民」といったクラシックの名前もそこかしこに散りばめられていて、そのシーンのBGMとして脳内再生しながら読むと、より作品の世界に没頭することができるのでおすすめですよ!!

当店では、皆川博子作品の買い取り大歓迎です。出張買取も承りますので、お気軽にお問い合わせください

ゆめみるおもい―ミュシャと晶子、夢の協奏

アール・ヌーヴォーを代表する画家兼デザイナーであったアルフォンス・ミュシャと、『みだれ髪』で有名な歌人、与謝野晶子。それぞれの名前はしばしば目にも耳にもしますが、このふたりの作品がひとつの場でいちどに取りあげられるというのは、とても稀なことではないでしょうか。今回紹介させていただく『ミュシャ小画集 夢想』では、なんと、そんな夢の共演が果たされているのです!!

ミュシャ小画集 夢想 / アルフォンス・ミュシャ、与謝野晶子 / 講談社 / 1997
ミュシャ小画集 夢想 / アルフォンス・ミュシャ、与謝野晶子 / 講談社 / 1997

この本とは、とあるブックカフェで出会いました。こじんまりとしたお店のなか、心なしかやさしい味のするカフェオレをいただきながらふっと視線を横にうつすと、そこにあったのは本棚の上に展示されたこの画集。ミュシャの画が表紙を飾り、ばっちり「画集」と題されてもいるのに、なぜかその下にあるのは与謝野晶子の名で、どういうことだ? とページをめくってみると、ミュシャの画と晶子の短歌が、互い違いに、もしくは同時にあらわれる、思いもよらない不思議な構成。どうしようもなく惹きつけられ、タイトルが夢想と書いて「ゆめみるおもい」と読まれているのも魅力的で、すぐさま購入を決めた本の山に積みあげました。

じつをいうと私は、ページを開いてみるまで、ミュシャと与謝野晶子、というか短歌をあわせることに不安をぬぐえずにいたのです。ミュシャはたしかに、かの有名な『トスカ』やデュマ・フィスの『椿姫』のような舞台のための作品をいくつも描いてはいますが、いずれも西洋のもの。短歌、という和の象徴のようなものとの相性はどうなのだろう、はたして互いのよさをうまく引きだせるのだろうか、とハラハラしましたが、それはまったくの杞憂でした。両者とも花やそこから連想されるものに題をとることが多いために一体感がありますし、ミュシャの平面的な画は、いざ短歌とあわせてみると、意外なほど違和感がなかったのです。

彼とおなじくチェコ出身の画家であるオルリックが浮世絵に感銘を受け、日本中を旅してまでその技法を習得した、という歴史的事実もあることですし、もしかするとミュシャも日本画を意識したことくらいはあったのかもしれず、それも短歌との協調を生みだす一因であるのかもしれないな、などと憶測に憶測ををつなげたようなことを、つい漫然と考えてしまいます。

当店では、ミュシャ関係の画集・図録や与謝野晶子の歌集などの買い取り大歓迎です。出張買取も承りますので、お気軽にお問い合わせください

『万葉恋歌―まんようこいうた』

万葉集の歌を分かりやすく解説して、さらにその素晴らしさを書いているエッセイです。百首以上の恋の歌が16の章のまとめられて掲載されています。店員Sは学生時代は古典が苦手で全く分からなかったのですが、この本では理解できそうです。林静一さんの絵もいいですよね。この本を手に取る切っ掛けは表紙のイラストという人も多いかもしれませんね。元々は女性向け雑誌の連載だったみたいですが、老若男女問わず楽しめる一冊だと思います。

万葉恋歌―まんようこいうた / 清川妙:文 林静一:画 / 主婦の友社 / 平成22年
万葉恋歌―まんようこいうた / 清川妙:文 林静一:画 / 主婦の友社 / 平成22年

当店では、古典や詩歌の本も取り扱っております。ぜひご来店くださいませ。

クウネル

2016年3月号の大幅なリニューアルによって巷で話題になっている雑誌『クウネル』ですが。出版社と読者のいろいろな気持ちが渦巻いていてちょっと胸が痛みます。売る側の立場としての事情や現実、旧クウネルの世界観や思想をいつまでもブレずに続けて欲しかったという読者のクウネル愛。折角リニューアルしたのだから良い方向にいってくれるといいですね、と同時に旧クウネルを支え続けてくれた読者がまた戻ってこれる場所をつくってほしいものです。

クウネル
写真とデザインがステキナ旧クウネル。

そうおもうとはるか昔より変わることなく続いている『暮しの手帖』はスゴいなぁ。理想と現実の狭間でブレることなく何かをやり続けることって仕事でもなんでも大変なんだなぁと思う今日この頃……なのでした。

当店では、『クウネル』や『暮しの手帖』などのスローライフ系雑誌やムック、単行本の出張買取大歓迎です! お気軽にお問い合わせください。