『CLOVER』―しあわせになりたい

『カードキャプターさくら』に『X』、『ツバサ-RESERVoir CHRoNiCLE-』に『ちょびっツ』と、多彩な作品を発表しつづけ、幅広い読者層から絶大な支持を得ている4人組の漫画家CLAMP。今回は、そんな彼女たちの作品の中ではあまり知られていない傑作、『CLOVER』を紹介させていただきたいと思います。

CLOVER 第1巻 / CLAMP / 講談社 / 1997
CLOVER 第1巻 / CLAMP / 講談社 / 1997

画面構成や会話のリズムといったところに美点のある作品なので、あらすじだけまとめて紹介するのは不粋なのですが、とりあえずざっとかいつまんでみると、このような流れ。退役軍人である琉・F・和彦は、かつての恩人から依頼され、とある少女を彼女の望みの場所である「妖精遊園地」へ送りとどけるという役目を引きうけます。「しあわせになりたい」「だから連れてってここじゃないどこかへ」というフレーズの繰り返し登場する、和彦の亡き恋人・織葉の歌を口ずさみつづける少女・スウ。なぜ彼女は幽閉されていたのか、なぜ織葉の歌に執着するのか、なぜ壊れた遊園地へ行きたいのか。多くの謎をかかえたまま、彼らは目的地にたどり着き、そして……。

『CLOVER』は、とても独創的な作品です。まず挙げられるのが、思いきったコマ割り。余白、というかコマに囲まれていない部分があまりに広く、コマの中で物語が進行するというよりは、登場人物や背景・小物へのスポットライトとしてコマが使われている、といった風情があります。つぎに、異様に細かく振られたタイトル。目次をひらくと、「葉」「森の中の小さな翼」「歌う少女」ほか21題がずらっと並べられており、本編を読みすすめると、平均して5ページほど、短ければ見開きの左右両方にというペースで読者の目にはいってくるこの題は、一般的な読み物で使われるような「章題」ではなく、もはや場面タイトルとでも称するのがふさわしいものとなっています。

イラストに着目してみると、トーンを使わず白黒ベタのみで塗ることで、どきっとするほどまっすぐに印象を叩きつけてくる画面が作りだされ、そのシンプルさが却って不思議な雰囲気を漂わせます。そういった面では、『xxxHOLIC』に近いところがあるかも……? そして、話の構成。ひとつの物語(たとえば和彦とスウの)が幕を閉じると、そこに登場した人物にまつわる過去が描き出され、その話がおわるとまた別の人物の過去が……といった具合に、「現在」から「過去」へ、糸をたぐるように時間軸を遡って話が展開されるのですが、彼ら彼女らに待ちうける結末をすでに知っている読者には、登場人物たちとはまったく違う視点が与えられ、それによってさらにこの作品のもつ不思議な印象が強められるのです。

2008年には全2巻の新装版も出たようですが、個人的には全4巻の旧版のほうがよかったなあと思ってしまいます……。スウと和彦を追う1・2巻、和彦と織葉の過去を描く3巻、そして、てっきり名脇役にとどまると思われた銀月と藍の出会いを、なんと丸一冊つかって描く4巻、とそれぞれの人間模様が巻ごとに収まりよくまとまっているので。とくに3巻、4巻は別々の冊子で持っていたい気持ちが……ううん、悩ましい。

この作品、今のところは完結扱いとなっていますが、CLAMPさんが続編執筆のご意思を表明されているので、いつか続きを拝むことができるかもしれません。とはいえ、4巻まででも十分に楽しめますので、すこしでも興味をもってくださった方はぜひお読みになってみてください。

『朝日文庫 相棒セット』

現在、シーズン14が放送されているTVドラマ『相棒』のノベライズのセットです。「警視庁ふたりだけの特命係」から「season9 下巻」までの21冊になりますが、読み応え十分!! ドラマを観ていても本で読むと違った印象を受けたりして面白いです。ドラマの方はシーズン13の最終回が物議を醸したり、シーズン14は視聴率が下がっていると言われていますが、やっぱり見ちゃうんですよね〜。それでも見逃した回はこのノベライズ版を読もうかなと店員Sは思っています。

相棒 / 脚本:輿水泰弘ほか、ノベライズ:碇卯人 / 朝日文庫
相棒 / 脚本:輿水泰弘ほか、ノベライズ:碇卯人 / 朝日文庫

当店では、相棒の他にもいろいろな文庫のセットを取り扱っております。ぜひご来店くださいませ。

『珍世界紀行 ヨーロッパ編―ROADSIDE EUROPE』

ヨーロッパの各地にある奇妙な場所をたくさん紹介している本です。処刑や拷問などの蝋人形が展示されている博物館などが載っていて、衝撃的な写真が多数あります。店員Sは写真で見るのが精一杯で、現地には行きたくない場所ばかりです。イタリアにあるスペーコラという所は動物と人間の解剖模型が展示されているのですが、小学校の課外授業にも使われているみたいです。本当にトラウマにならないといいのですが。他にも動物の剥製でファンタジーな世界を作り展示している場所なども紹介されていて、少しですがほのぼの出来るページもあります。かなり刺激的な本ですが、このような世界もあるのだと知ることが出来る一冊です。

珍世界紀行 ヨーロッパ編―ROADSIDE EUROPE / 都築響一 / ちくま文庫 / 2009
珍世界紀行 ヨーロッパ編―ROADSIDE EUROPE / 都築響一 / ちくま文庫 / 2009

当店では、旅や紀行文などの書籍なども取り扱っております。ぜひご来店くださいませ。

『倒立する塔の殺人』―花の腐臭をただよわせる愛憎劇

先だって文化功労者に選出された皆川博子さんですが、彼女の小説をお読みになったことはありますか? もしや、ミステリーという言葉から謎解きを連想して、「そういうのはちょっと……」と敬遠なさっている方もいらっしゃるのだろうか、とふと思いましたので、皆川作品への入門書として、先生の中ではおそらくかなり親しみやすい部類にはいるであろう『倒立する塔の殺人』を紹介させていただくことにします。

倒立する塔の殺人 / 皆川博子 / 理論社 / 2007
倒立する塔の殺人 / 皆川博子 / 理論社 / 2007

かなり大雑把にまとめてしまうと、3人の少女たちが戦時下の女学校で交流を深めるが、突然にそのうちの1名が失踪、1名が死亡してしまう。遺品となった連続小説『倒立する塔の殺人』をほぼ唯一の手がかりとして、のこされた少女は、語り手である主人公とともに、憧れていた先輩の不自然な死の謎の解明にのりだすが……? といった話の運びです。

たしかに謎解きの要素はありますが、一種の恋愛小説でもあり、昭和の少女小説にしばしばみられた、女学校の上級生と下級生が結ぶ擬似姉妹関係、すなわち「S(エス)」の要素もふんだんに取りいれられている(実際、この言葉が小説のなかで使われている)ことから、そういったジャンルの小説として捉えることもできます。探偵が事件を解決していく、というようなものとは、またすこし毛色が違うのです。皆川先生のほかの作品、たとえば『薔薇密室』や『冬の旅人』といったものにしてもそうで、謎をいかに解明するか、というよりは、舞台設定や登場人物たちの性格や関係性の描写、全体を通した雰囲気づくりに重きが置かれているように個人的には感じます(だからといって、謎解き部分もけっして手を抜かれていない、というのがまた凄いところ)。

ちなみに、あらすじでも述べたように、作中にはこの小説と同題の本が登場するのですが、その本がどう描写されているかというと、「模造革の背表紙に孔雀模様のマーブル紙の表紙、中のページは白いこの本」。もうお気づきかと思いますが、『倒立する塔の殺人』の装丁は、これを模しているのです。小説の中にその本が登場する、というのは、ファンタジー小説やホラー小説などでよく使われる手法ですが、装丁まで合わせてくるとは……。単行本の特権である装丁の自由さがフルに活かされています。こだわり抜かれた本は、つい手元においておきたくなりますよね。

また、『白痴』『罪と罰』や『カラマーゾフの兄弟』、「アリョーシャ」「ラスコーリニコフ」など、皆川先生の、ロシア文学というかドストエフスキー好きを覗わせる単語がポロポロとでてきて、すこしくすっとしてしまいます。ファンの間では先生のドスト好きは有名で、あの陰鬱のさなかでこそ輝く美しさなど、影響をうけたのだろうなあ、というのは読んでいてひしひしと伝わってきます。皆川先生を愛読している友人に、以前紹介させていただいた『青年のための読書クラブ』を貸してみたところ、この本に雰囲気が似てるね、というような感想をもらい、ドストエフスキー好きの皆川先生の作品にドストエフスキーと、皆川先生のファンである桜庭一樹さんの作品に皆川先生と似た雰囲気が漂っているということで、受け継がれてゆくものを感じてわくわくしてしまいました。

「美しく青きドナウ」や「流浪の民」といったクラシックの名前もそこかしこに散りばめられていて、そのシーンのBGMとして脳内再生しながら読むと、より作品の世界に没頭することができるのでおすすめですよ!!

当店では、皆川博子作品の買い取り大歓迎です。出張買取も承りますので、お気軽にお問い合わせください

ゆめみるおもい―ミュシャと晶子、夢の協奏

アール・ヌーヴォーを代表する画家兼デザイナーであったアルフォンス・ミュシャと、『みだれ髪』で有名な歌人、与謝野晶子。それぞれの名前はしばしば目にも耳にもしますが、このふたりの作品がひとつの場でいちどに取りあげられるというのは、とても稀なことではないでしょうか。今回紹介させていただく『ミュシャ小画集 夢想』では、なんと、そんな夢の共演が果たされているのです!!

ミュシャ小画集 夢想 / アルフォンス・ミュシャ、与謝野晶子 / 講談社 / 1997
ミュシャ小画集 夢想 / アルフォンス・ミュシャ、与謝野晶子 / 講談社 / 1997

この本とは、とあるブックカフェで出会いました。こじんまりとしたお店のなか、心なしかやさしい味のするカフェオレをいただきながらふっと視線を横にうつすと、そこにあったのは本棚の上に展示されたこの画集。ミュシャの画が表紙を飾り、ばっちり「画集」と題されてもいるのに、なぜかその下にあるのは与謝野晶子の名で、どういうことだ? とページをめくってみると、ミュシャの画と晶子の短歌が、互い違いに、もしくは同時にあらわれる、思いもよらない不思議な構成。どうしようもなく惹きつけられ、タイトルが夢想と書いて「ゆめみるおもい」と読まれているのも魅力的で、すぐさま購入を決めた本の山に積みあげました。

じつをいうと私は、ページを開いてみるまで、ミュシャと与謝野晶子、というか短歌をあわせることに不安をぬぐえずにいたのです。ミュシャはたしかに、かの有名な『トスカ』やデュマ・フィスの『椿姫』のような舞台のための作品をいくつも描いてはいますが、いずれも西洋のもの。短歌、という和の象徴のようなものとの相性はどうなのだろう、はたして互いのよさをうまく引きだせるのだろうか、とハラハラしましたが、それはまったくの杞憂でした。両者とも花やそこから連想されるものに題をとることが多いために一体感がありますし、ミュシャの平面的な画は、いざ短歌とあわせてみると、意外なほど違和感がなかったのです。

彼とおなじくチェコ出身の画家であるオルリックが浮世絵に感銘を受け、日本中を旅してまでその技法を習得した、という歴史的事実もあることですし、もしかするとミュシャも日本画を意識したことくらいはあったのかもしれず、それも短歌との協調を生みだす一因であるのかもしれないな、などと憶測に憶測ををつなげたようなことを、つい漫然と考えてしまいます。

当店では、ミュシャ関係の画集・図録や与謝野晶子の歌集などの買い取り大歓迎です。出張買取も承りますので、お気軽にお問い合わせください