『はみだしっ子』―心に刺さる、永遠の名作

さて、皆さんは『はみだしっ子』をご存知でしょうか。「名前は知っているけど読んだことがない」、「今初めて名前を聞いた」という方、書店(まだ置いてあるかな……? )、あるいは古本屋に走ってください。探す手間と読む時間をかけるだけの、いえそれ以上の価値はあると請け合いましょう。

はみだしっ子 第1巻 / 三原順 / 白泉社 / 1996
はみだしっ子 第1巻 / 三原順 / 白泉社 / 1996

『はみだしっ子』は、三原順の代表作。絵柄の繊細な可愛らしさは70年代周辺の少女漫画らしいそれですが、展開されてゆくのは、人間同士の関わり方、あるいは戦争や人殺しといった、とても深刻なテーマを扱った話です(その分、合間に挟み込まれる番外篇にはコミカルなものも多く、ほっと一息つけるのでありがたい)。これほど読むのにエネルギーを使う漫画もそうないような……。

「親に捨てられ、親を捨てた子どもたち」である、グレアム、アンジー、サーニン、マックスを中心として物語は進みます。真面目に過ぎ、さまざまな物事を重く受け止めてしまい苦悩するグレアム、皮肉屋でお調子者だけれど身内に対して誰よりも慈しみ深いアンジー、元気がよく動物を愛し、人々の痛みに寄り添うやさしさをもつサーニン、最年少ですこし甘えたがり、しかし誠実で聡明でもあり、その無邪気さでグレアムたちを幾度となく救ってきたマックス。

それぞれが「親」という存在にまつわる重い過去を抱えていますが、それを受け止め乗り越えて彼らは成長してゆきます。この作品を読んだ人は、この四人全員が愛おしくなって、そしておそらく四人の中の誰かに特別な思い入れをもつようになるでしょう。ちなみに私はアンジーでした(アンジー好きの個人的な宣伝ですが、番外編「愛しのオフィーリア」をよろしくお願いします!! )。

この話のどこが素晴らしい、だとか、このコマのこの表情でのこの台詞が心に刺さる……、だとか、色々と語りたいことはあるのですが、なにぶん魅力的なところが多すぎてとても語り尽くせないので割愛させていただきます。少しでも興味を持ってくださった方は、とにかくまず読んでみてください。繰り返しになりますが、手間と時間、そして読み進める気力、それらに見合う価値はあります。

当店では、名作少女マンガの買取りを承っております。出張買取も行っていますので、お気軽にお問い合わせください

『ジゼル・アラン』ー優しい話、繊細な絵

漫画に求められるのは、勿論ストーリーの面白さですが、絵の雰囲気も重要なファクターですよね。漫画として優れている作品というのは、話と絵の雰囲気がぴったり合っている作品であるような気がします。

ジゼル・アラン 第1巻 / 笠井スイ / エンターブレイン / 2010
ジゼル・アラン 第1巻 / 笠井スイ / エンターブレイン / 2010

さて、話の面白さもさることながら、そんな「話と絵の雰囲気の親和性」という点で最近私が感動したのがこの『ジゼル・アラン』です。アパートの大家であり、じつは名家のお嬢様でもある少女ジゼルが、周囲の助けを借りながら「何でも屋」として成長してゆくお話。どこか上品で、優しく温かみのある作品なのですが、その温かみを表現するのに、絵の雰囲気が一役も二役も買っているのです。

とても繊細で、とにかく描き込みの密度が凄まじい!! 草花や洋服のディテール、レンガのざらざらした質感や木造の船の木目、果ては煙突の煤汚れまで、ひとつも手を抜かず、一コマ一コマ大切に描いているのが伝わってきます。登場人物の表情も、笑顔、泣き顔、照れ笑い、悔し涙、すべてにありったけの感情がこめられているよう。その感情に引っぱられて、読んでいるうちに彼ら彼女らがとても愛おしくなってきます。

優しい話と、繊細で気品のある、丁寧に描かれた絵。そのふたつが組み合わさって、うっとりしてしまうほど素敵な作品に仕上がっているのです。

当店では、漫画の単行本の買取りを承っております。出張買取も行っていますので、お気軽にお問い合わせください

青春の賛歌―『啄木歌集』

石川啄木というと、あの有名な「働けど働けど~」という短歌のイメージがやはり強いのではないかと思います。もちろんあの歌も素晴らしいのですが、あれはどちらかと言えば大人になってから共感できるようになる歌。はじめて啄木に接した小学生や中学生時代、どこかとっつきにくく感じ、そのまま啄木から離れてしまった人もいるのではないでしょうか(と、いうか私がそうだったのですが…… )。

新編 啄木歌集 / 石川啄木  / 岩波書店 / 1993
新編 啄木歌集 / 石川啄木 / 岩波書店 / 1993

しかし、啄木を食わず嫌いしてしまうのは勿体ない!! じつは、彼の作品は「青春の賛歌」とも称され、恋の歌なんかもたくさん歌っているのです。

「眼とぢて立つや地なる骸の世辿る暫しの瞬きよ恋」や、「いつはりて君を恋しといひけるといつはりて見ぬ人の泣く日に」。「はなやかに物いふ人も手をとれば仄にうつむくをかしき夕べ」は情景がふっと目に浮かぶようですし、「人ひとり得るにすぎざることをもて大願とするあやまちは好し」なんて、とても粋ですよね。

私が一番好きなのは、「春の日は今日ゆかむとす君を見てわれ落涙す故を知らずも」なのですが、恋の歌ととっても、そうでなくても、しんと沁みわたる儚く美しい歌だと思っています。

啄木は暗いし難しそう……という先入観を取り払って歌集をめくってみると、きっとお気に入りの一首に出会えることでしょう。

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桜庭一樹『青年のための読書クラブ』―乙女魂のクロニクル

桜庭一樹といえば、直木賞を受賞した『私の男』を思い浮かべる方が多いと思います。しかし私にとって彼女は「少女の季節」を描き出す作家としての印象が強く、『青年のための読書クラブ』は殊にそれを感じさせる作品です。

青年のための読書クラブ / 桜庭一樹 / 新潮社 / 2011
青年のための読書クラブ / 桜庭一樹 / 新潮社 / 2011

物語の舞台は歴史ある女学校。伝統と格式、そしてプライドに凝り固まったお嬢様達の中、はみだし者の集まりである読書クラブが巻き起こす、まさに「小説の如き」事件の数々が描かれます。文庫本カバーの紹介文から引用させていただくと、「あらぶる乙女魂のクロニクル」。

それぞれの事件はエドモン・ロスタンの『シラノ・ド・ベルジュラック』やシェイクスピア『マクベス』、ホーソンの『緋文字』やバロネス・オルツィ『紅はこべ』等がモチーフとなっていて、「この小説が桜庭節をきかせるとこうなるのか!!」と思わず感嘆のため息がもれます。

この物語に登場する少女達があまりにもマイペースに学園生活を謳歌しているだけに、読み返す度「女子校に通ってみたい衝動」が噴出してしまうのが困りものです。もう無理だというのに……。

当店では、小説や文庫本の買取りを承っております。出張買取も行っていますので、お気軽にお問い合わせください!!

嵐が丘―E・ブロンテ魂の傑作

今まで読んだ本の中で、一番美しかったのは? と問われれば、私は鏡花の『春昼・春昼後刻』だと答えます。しかし、一番おもしろかったのは? あるいは、一番印象に残っているのは? と問われたのなら、その時は迷うことなく『嵐が丘』を挙げるでしょう。

荒々しく獰猛で身勝手、なりふりかまわずに愛に生きる登場人物たち、そして彼ら彼女らの紡ぎ上げる物語は、圧巻の一言です。中でもヒースクリフ、復讐劇の主役たる彼の野蛮な魅力は、『オペラ座の怪人』のファントムにも匹敵します。(ちなみに私は「恋をするならヒースクリフがいい」といって友人に引かれた経験があります……。)

『嵐が丘』の原書と翻訳本
『嵐が丘』の原書と翻訳本

作者エミリー・ブロンテは、結核を患うも医者を拒み続け、30歳の若さでこの世を去りました。彼女が『嵐が丘』を書き上げたのは1847年、死病にとりつかれる前なので、執筆中に自らの死を予感していたわけはありません。けれども、この作品を読むたびに、彼女は生きた証として『嵐が丘』の執筆に全身全霊を懸けていたのではないか、という気がしてしまいます。そうでなくて、あれほどの凄まじい作品が書けるものでしょうか。

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