人間以外の動物たちが、どのように自分の周りの世界を知覚し認識しているのかを興味深く知ることができる前半と、人間がいかに倫理的な(つもりの)枠のなかで世界を捉えているかを、生物学から哲学へと枠をまたぎつつ気づかせてくれる後半で構成された一冊です。平易で読みやすい文体でした。
動物行動学者である著者が、「環世界」「イリュージョン」をキーワードに人間・動物がいかに世界を構築するかを説きます。
同じ環境にいても知覚能力に差があれば、まったく違う世界になる。紫外線を見ることができるモンシロチョウは、人間とは違う風景を見ていることでしょう。視覚は微弱でも嗅覚がするどい動物は、嗅覚をメインに世界を構築するでしょう。でも、嗅覚で世界を構築するって何だろう?人間には想像すらできません。そんな興味の途切れない不思議さを味わえます。生き物はすべて、それぞれが知覚できる範囲でしか世界を切り取れないし、本能や行動様式に沿った形で都合よくものごとを選びとって世界を認識しているのだなという気づきもありました。
そして後半部を読みながら「人間は他の動物より優れている」という無意識に付け上がったようなところが自分の中にあったことに気が付きました。「あらゆる生物のなかで人間こそが唯一 "客観的に" 世界を捉えている」「人間が真理に一番近いところにいる」となんとなく思っていたかも、と…
本書の最後に著者は「学者や研究者はいったい何をしているのだと問われたら、答えはひとつしかない」と語り、著者が導き出した答えがなんともユーモラスで思わず息がもれました。とても味わいのある読後感はこのオチのおかげかもしれません。おすすめです。
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