基本的に日本史には全く興味はないですが、日本の美意識としての「わび・さび」がどんなものかを知りたいと思ってこの本を手に取りました。
でも千利休といえば日本史の教科書の中の人といったイメージが強かったので、もし千利休ヒストリーが長々と続いたなら、日本史に興味ゼロの私は飽きてしまうのではという不安がありました。または茶道の歴史や御作法など、これまた同様にお勉強チックであったとしても挫折するだろうと思っていました。しかしこの懸念は、読み始めからそれはもう気持ち良いくらいに一掃されます。
序盤にある、赤瀬川原平目線の前衛芸術論がシンプルかつ的を射ていて、読み進めるたびに嬉しさすら感じるのです。全文パンチラインと言ってもいいほど。最初の数十ページでもう幸福感でグロッキー。読み進めるワクワク感がありがた迷惑なことに流し読みを許さない。読んでいて楽しいのに全部逃さず平らげようとするから数ページ読んで満腹になり、胃もたれならぬ脳もたれ、食べ疲れがおきてしまったので少しずつ小分けに読んだ程でした。気に入った文の上にフセンを貼っていたら、おびただしい数になって本の上端だけ厚みが2倍くらいになってるかもしれないです。
もちろん利休と秀吉の関係などにも触れますが、歴史の勉強然としてでなく、いち人間関係の妙であったり、両人の価値観・美意識がぶつかり合う空中戦を見ているようで、とてもスリリングです。
古代より今日まで続いている芸術というムーブメント、それは人間にとってどういう作用があるのか。そういった動きが、実生活にどう現れているのかをあらためて知ることができます。
この本を読んだ後では、何万回と繰り返し歩いている帰り道ですら、何か新しい変化を感じ取ってやろうとするような気持ちのハリが生まれます。流行り廃りや常識、偏見など、うずたかく積み上がった情報の山に埋もれている「新しい価値」を発見したい気持ち、そして自分オリジナルの感性を身につけたい気持ちでいっぱいです。それは一種の挑戦ではあるけれども、今ワクワクしています。