※予め申し上げておきますと、僕はプロレス・格闘技ファンではありません。“ガチ”の方ははしゃぐ若輩者を眺める心の広い先輩として、あたたかく見守ってください。
僕にとって高田延彦という人は、元プロレスラーで格闘技をやっていた人、くりぃむしちゅー有田のものまね「出てこいや」の元ネタの人、ふんどし太鼓の人でした。
1990年代後半から2000年代と、僕の青春時代は総合格闘技ブームど真ん中だったので、興味がなくても高田をはじめ数々の格闘家の名前は情報として頭に入っていましたが、実際にどのような死闘やドラマがあったのかは知りませんでした。
ここ数年、世間的なプロレス再興のわずかな兆しを感じて、僕の中でプロレスに対する種火のような興味の灯がともり(やがて燃える闘魂になるかは分かりません)、そしてこの本『泣き虫』(金子達仁 著/幻冬舎/2003年)に辿り着いたのです。
複雑な家庭環境で育ち、いじめも経験した少年時代から、アントニオ猪木に憧れ新日本プロレスに入団、その後いまでも伝説となっている団体UWF、Uインターへと、スターレスラーの階段を駆け上がるプロレスラー時代、ヒクソン・グレイシー戦に破れ最強幻想が崩れるも、愛憎相半ばする後輩・田村潔司との引退試合でかっこいい男の引き際を見せる総合格闘家時代までを綴ったノンフィクションです。
また、プロレスや格闘技における“エンターテインメント・ショー”と“勝負”のあいだにある機微に対するリテラシーが(例の“高橋本”発表以降なので、昭和ほどではないにしろ)まだ今ほど高くなかった2003年に“ガチ”“八百長”といったデリケートな部分に高田本人の言葉で触れています。プロレスラー・格闘家本人が言及するということに当時のファンは困惑したことと思います。
浅はかなプロレス知識しかない僕でも、この本は楽しく読み進めることができました。プロレスラー・格闘家としての魅力よりも、高田延彦本人の人間としての可愛らしさを感じられ、それが面白いのです。なんというか…“一番大事な場面で、一番やってはいけないポカをする人”なんですよ。それに対して素直に落ち込み思い悩む高田。周りの人も迷惑を被るけど、なんだかんだほだされてしまう、最強の人たらし。そういった人間味にあふれた高田延彦の描写に、つい微笑みつつページを進めてしまいました。大ポカとしては90年代に一度プロレスラーを引退し、周りに押し切られて望まぬまま選挙に出馬、しかし同時期にCM契約もしていたので違約金が発生、選挙の結果も落選。あとヒクソンとの初戦前も契約内容でいろいろこじれてしまい、体もモチベーションも最悪な状態でその日を迎え、高田曰く「死刑台にあがる気分」でリングへ。結果はもちろん惨敗。「なぜこのタイミングで」と突っ込まずにいられないポカ具合なんです。
タイトル『泣き虫』も、なんと人間味にあふれたタイトルでしょうか。以前高田が謳われた『最強』の正反対のイメージでしょう、『泣き虫』。一人の人間としては、高田は泣き虫で、ポカもしちゃうし奥さんである向井亜紀さんも本当に大変だったろうけど、それでも可愛らしいのです。死語でいうと、“萌えます”。
ということで、約2年ぶりの記事投稿となりました、店員Tでした。また2年後に(それ以上の可能性も)(これが最後の可能性も)!
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