原田マハ『サロメ』と「怖い絵」展――オーブリー・ビアズリーの描いた怪女

10月7日、兵庫で人気を博した「怖い絵」展が満を持して東京・上野の森美術館にやってきます。中野京子著『怖い絵』の刊行10周年を記念して開催されているこの展覧会にてオーブリー・ビアズリーの絵画が展示されるということで、今回は、ビアズリーとオスカー・ワイルドの関係性に着目して織りなされた小説、原田マハの『サロメ』をご紹介したいと思います。

サロメ / 原田マハ / 文藝春秋 / 2017
サロメ / 原田マハ / 文藝春秋 / 2017

この小説はいわゆる枠物語になっていて、ビアズリーとワイルド、それぞれの研究者の邂逅から額縁部分が組み上げられてゆき、未発表の『サロメ』の挿絵が登場したところで、時代を遡って鬼才オーブリー・ビアズリーの物語が始まります。語り手は彼の姉であるメイベル・ビアズリー。この内側の物語の中でもさらに時系列は錯綜し、オーブリーの死の間際から幕が開くため、物語を通して不穏な陰がつきまとい、読者は姉弟を待ち受ける破滅がいつ襲い来るのかと恐々としながら(あるいはその瞬間をこそ期待しながら)ページをめくっていくことになるでしょう。

まだ無邪気に描くこと・演じることを楽しんでいた子供時代から、時を経るにつれて芸術の悪魔に魅入られてゆく弟と焦燥に駆られ手段を選ばなくなってゆく姉、作中でたびたび怪物と称されるワイルドとの出会い、豹変してゆくオーブリー、弟をワイルドの魔手から奪い戻さんと罠を張りめぐらせるメイベル……。

それぞれの欲望と激情と執着に忠実に駆ける登場人物たちによって描き出される物語は、われわれ読者をその疾走に巻きこみ逸らせる力を備えています。

ワイルドとオーブリーの耽美で愛憎渦巻く関係性や芸術家の狂気が話の中心となってはいるものの、それを物語るメイベルもとても魅力的な人物。弟を画家としての成功へ押し上げるため、そして自身が名のある女優となりスポットライトを一身に浴びるために、ときには劇場主と夜を共にし、またあるときにはワイルドとオーブリーの繋がりを決定的なものとする筈であった翻訳原稿を密かに売り渡し、と暗躍します。物語の半ばまでは、ともすれば天才芸術家ふたりに振り回される凡人の役回りかとも思われるのに、その実最終的には自身の仕掛けた罠によってすべての破滅を招く、嵐のような、あるいは虚しい道化のような彼女。

『嵐ヶ丘』のキャサリン・ロックウッドや『白痴』のナスターシャ・フィリッポヴナといった苛烈で狂気的で物哀しい女性特有の魅力を、運命の女と呼ぶにはやや役者不足ながらもたしかに漂わせる人物なので、その方面がお好きな方にもおすすめできる作品です。

「怖い絵」展の会場では、ビアズリーが『サロメ』に寄せたすべての挿絵が印刷されたバンダナスカーフや、その中でも衝撃的な一枚、銀の大皿の上で血を滴らせるヨカナーンの首を掴むサロメが描かれた《踊り手の褒美》がプリントされたマグカップが販売されるそうです。赤と白と黒というコントラストのくっきりとした色使いもあいまって、どちらもビアズリーの絵に相応しい迫力を醸し出しています。

ところで、この展覧会、グッズに心惹かれるものが多すぎませんか……? 「サロメ」関連のものの他にも、展示される絵画の中に登場する女性をピックアップした缶ミラーあたりはもう、数奇な運命を辿った女性やファム・ファタール、神話に登場するような並外れた女を偏愛する層を狙い撃ちですし、「キルケー」と「セイレーン」をイメージしたバスソルトだなんて背筋を凍らせるような代物も。なんというか容赦のない品が多すぎて(しかもホームページに紹介されているのは一部)、興奮のあまりお財布の中身を捧げ尽くしてしまいそうですが、どうにか踏みとどまりたいと思います……。ああでも、怪物的な女やこの世ならざるものに破滅させられるのはむしろあるべき流れなのでは……?

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店員N

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