「こんにちは土曜日くん。」「おれ、ゴリラ。」土屋耕一のコピーの魅力

こんにちは。この記事を書いている本日は東京で初雪が降っています。東京における11月の初雪は1962年以来じつに54年ぶりとのこと。足元から染みてくる冷気に、早い冬の訪れを感じずにはいられません。店員Tです。

さて今回は、コピーライターの土屋耕一氏について書かせていただきます。土屋さんは1930年東京都生まれ。1956年に資生堂に入社し宣伝文化部で経験を積んだ後、1960年に日本初の広告制作プロダクションであるライトパブリシティに入社。伊勢丹、キッコーマン、東レなどの広告コピーを発表します。その後フリーとなり、コピーだけでなく回文や俳句、アナグラムなど“言葉あそび”の分野でも注目を集め、お~いお茶新俳句大賞の審査員としても知られました。2009年没。過去の広告がデザイン系雑誌で取り上げられるなど、現在もなお影響力のあるコピーライター界の巨人の一人です。

『土屋耕一前仕事 広告批評の別冊4』1984/マドラ出版
土屋耕一全仕事 広告批評の別冊4 / マドラ出版 / 1984

数ある土屋さんの仕事の中でも、有名なものはやはり資生堂と伊勢丹の広告コピーではないでしょうか。

資生堂口紅シャーベットトーン「そろそろ次の口紅というとき……」1962年
資生堂口紅シャーベットトーン「そろそろ次の口紅というとき……」1962年

ド真ん中に写った、使い古してちびた口紅。それに添えられたかのように控えめで上品ですが訴求力のあるコピー。なんともお洒落ですね。

資生堂ベネフィーク「君のひとみは10000ボルト」1978年、「ピーチパイ」1980年
資生堂ベネフィーク「君のひとみは10000ボルト」1978年、「ピーチパイ」1980年

広告と他メディアとの、今でいうメディアミックスも手がけており、土屋さんのコピーが先行する形で堀内孝雄さんの『君のひとみは10000ボルト』、竹内まりやさん『不思議なピーチパイ』という今でも有名な曲が作られ、資生堂のCMで流れました。商品、楽曲ともに広く知られることとなったのは言うまでもありません。

伊勢丹「こんにちは土曜日くん。」1972年
伊勢丹「こんにちは土曜日くん。」1972年

お次は伊勢丹の広告です。今では「こんにちは土曜日くん。」と言われてもいまいちピンときませんが、要はこの時期は、日本に週休二日制という考えが広まりつつあった革新の時代。人々の生活に訪れた変化を敏感に察知し、アピールポイントとしたわけです。

伊勢丹「なんと、まあ、アロハではありませぬか。」「汗をながしたあと、ってのは ま、なにを食べても美味ですが」1973年
伊勢丹「なんと、まあ、アロハではありませぬか。」「汗をながしたあと、ってのは ま、なにを食べても美味ですが」1973年

こちらも伊勢丹。「なんと、まあ、」や「ってのは」などを使った口語体の魅力あふれるフランクで味のあるコピーです。上のコピーは「なんと、まあ、」というとてもくだけた文体の始まりに対する「ありませぬか」という結びの丁寧さが、アンバランスの妙となっています。伊丹十三氏のエッセイでも見られるような軽妙でありつつお洒落な文体の面白さがあり、それが両者の同時代性(3歳違い)によるものなのかどうか分かりませんが、似たものを感じました。

土屋氏のコピーだけでなく、今現在まで数多あるコピーを見て思うのは、日本語を活字化・可視化する時に、日本人が「明朝体」「句読点」に対して持つイメージをうまく利用することで、訴求力を高めることができるんだな、ということです。どこかかしこまったようなイメージを持たせることができる「明朝体」「句読点」にあえてとぼけた口語体を持ってくるというように、視覚と意味とのちくはぐさによる可笑しみを狙うことも可能ですし、逆に荘厳さを増大させることも可能でしょう。TVアニメ『新世紀エヴァンゲリオン』のサブタイトルの極太明朝体で感じる、“恐ろしいまでの大仰さ”も、「明朝体」「句読点」の効果を利用した一例ではないでしょうか。

では最後に、土屋さんが携わった広告の中でも私が一番好きなものを。

明治チョコレート「おれ、景品。おれ、ゴリラ。」1972年
明治チョコレート「おれ、景品。おれ、ゴリラ。」1972年

ド直球。これ以上にシンプルにできないうえに、見たものに「えっ、どういうこと?」という衝撃が走り、無視させないパワフルさがあります。私がこの広告を知ったのは某古本屋でレトロな広告を集めた本を見つけたときです。手に取りパラパラめくっただけでも、この広告は目に焼き付きました。当時の子供、特に男の子は間違いなく食いついたでしょう。お母さんに明治のチョコレートをねだる姿が思い浮かびます。

草古堂では、広告系やデザイン系の書籍、雑誌の買取大歓迎です! お気軽にお問い合わせください。

幕張店は雪でも営業しております。

東京で11月に雪が観測されたのが54年ぶりだとニュースになっていますね〜。昨日の予報で雪になると聞いたときには山沿いの方でちょっと降る程度だと思っていたのですが、しっかりと大粒の雪で驚きました。首都圏は雪に弱く、交通に乱れが出たり、路面が凍結したりするので車の運転もくれぐれも気をつけてほしいですね。

草古堂 幕張店は雪の日でも販売も古書の買取りも通常通りに営業しております。お近くに来られた際はぜひお立ち寄りくださいませ。

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入荷情報:『水素エネルギーで甦る技術大国・日本』

祥伝社新書『水素エネルギーで甦る技術大国・日本』という本が入荷しました。新しい本を読んですぐに売りに来ていただけるのは古本屋としてはとてもありがたいですね。

この本は水素エネルギーを日本の技術力で発展させて環境にやさしく、豊かな未来にしていこうという内容です。水素エネルギーがクリーンなのは知っていますが、どんな事に利用できるのかなど勉強になります。ただまだ効率が悪いので実用には時間がかかると思いますが、研究者の方たちには頑張ってほしいですね。そして私達も環境問題について個人でもできることを考えていかないといけないと改めて思います。

水素エネルギーで甦る技術大国・日本 / 森谷正規 / 祥伝社新書 / 2016
水素エネルギーで甦る技術大国・日本 / 森谷正規 / 祥伝社新書 / 2016

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買取情報:絵本いろいろ ―美品です!―

絵本の入荷情報をお知らせしましたが、今回もかわいい絵本たちがまとめて幕張店に入荷いたしました。絵本は小さいお子さんが読むのでどうしても傷みがちですが、今回入荷の絵本はどれもやぶれやシミなどほとんどなく古本としては「美品」といっていい状態のものを譲っていただきました。ありがたいことです。

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古本をきれいな状態に保つのに役立つのが保護用の透明カバーです。大型本はとくに痛みやすいので、なるべくがんばってお付けしていきたいと思います!

今回入荷の絵本のなかで個人的に思い入れがあるのはこちら。

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てぶくろ / エヴゲーニイ・ラチョーフ絵、田中潔訳 / ネット武蔵野

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小さい頃、どれだけこのてぶくろに入りたかったことか。こんな小さいてぶくろにこれだけの動物が入るわけない! と幼心にも思ってた気がしますが (笑)、そんな常識は置いといて、てぶくろにぎゅうぎゅうにすっぽりと収まって嬉しそうな動物たちがとても羨ましかったのを覚えています。ロングセラーの絵本は子供心をつかむのが上手いですよね!

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『しまなみ誰そ彼』――マイノリティの葛藤と救い

1年ほど前の、ある肌寒い日。私が在籍している大学のすぐ近くにある学生御用達の書店、そこの店員さん一押しコーナーにこの『しまなみ誰そ彼』は並んでいました。その日の私は、この本の帯を見て、息が止まるという感覚を久々に味わうことになったのです。

まず目に飛びこんできたのは、表紙の、繊細な絵と印象的な青。そして視線をすこし落とし、件の帯へ。そこには、次のような文句が書かれていました。

「お前、ホモなの?」――その言葉に僕が、死んだ。

しまなみ誰そ彼 第1巻 / 鎌谷悠希 / 小学館 / 2015
しまなみ誰そ彼 第1巻 / 鎌谷悠希 / 小学館 / 2015

『しまなみ誰そ彼』は、ゲイであることを必死で隠し苦悩してきた少年・介(たすく)が、「誰かさん」と呼ばれる女性や彼女のお店に集う面々と触れあう内に、自らの性指向、ひいては自分自身を受けいれてゆく話です。私自身、同性愛者でこそないものの、周囲から押しつけられる異性愛者の価値観に違和感を感じている身なので、読んでいてとても「刺さる」ものがありました。

とりわけ鋭かったのは、クラスメイトにゲイであると知られかけ自殺寸前まで思い詰めた介の、さんざん溜め込んだ感情をありたっけのせた叫び。

「なんで! なんで俺が、 なんでお前らの顔色見て生きてかなきゃいけないんだよ。 なんでこんなに串刺しにされなきゃいけないんだよくそ!! 俺は死にそうなのになんであいつらは死なないんだ」

私は、もう長いこと、ひとつの理想を抱いています。性的マイノリティが特別視されない世界。わざわざ注目などしなくてもよいくらいに、それらが当たり前のものとして認識される世界。多数派の人々と同じように、少数派の価値観が受け入れられる世界。なにもこれは、性的指向に関するものに限りませんが。

同性の人を好きになるのは、けっして異常なことではない。マイノリティ、というように、ただその指向をもつ人の数が少ないだけのことです。マジョリティとマイノリティの差は、ノーマルとアブノーマルの差にはなりえない。

ここ数日、アメリカ大統領選の結果を受けて、ネットでいろいろな意見が投稿されているのを目にします。そのなかに散見されるのは、移民や特定の宗教を信仰する人々や女性、そして性的マイノリティに対する差別的な発言を繰り返してきたトランプ氏への憤りの声。その声が上げられた、そして多くの人がそれに同調している、その事実が、この辛い現実のなかでせめてもの救いとなってくれています。

誰かにとっての「誰か」は、もしかするとすぐ近くにいるのかもしれない、そう信じたい。

古本屋 草古堂は、ジェンダーやLGBTQに関する書籍の買い取り大歓迎です。出張買取も承りますので、お気軽にお問い合わせください