こんにちは。この記事を書いている本日は東京で初雪が降っています。東京における11月の初雪は1962年以来じつに54年ぶりとのこと。足元から染みてくる冷気に、早い冬の訪れを感じずにはいられません。店員Tです。
さて今回は、コピーライターの土屋耕一氏について書かせていただきます。土屋さんは1930年東京都生まれ。1956年に資生堂に入社し宣伝文化部で経験を積んだ後、1960年に日本初の広告制作プロダクションであるライトパブリシティに入社。伊勢丹、キッコーマン、東レなどの広告コピーを発表します。その後フリーとなり、コピーだけでなく回文や俳句、アナグラムなど“言葉あそび”の分野でも注目を集め、お~いお茶新俳句大賞の審査員としても知られました。2009年没。過去の広告がデザイン系雑誌で取り上げられるなど、現在もなお影響力のあるコピーライター界の巨人の一人です。
数ある土屋さんの仕事の中でも、有名なものはやはり資生堂と伊勢丹の広告コピーではないでしょうか。
ド真ん中に写った、使い古してちびた口紅。それに添えられたかのように控えめで上品ですが訴求力のあるコピー。なんともお洒落ですね。
広告と他メディアとの、今でいうメディアミックスも手がけており、土屋さんのコピーが先行する形で堀内孝雄さんの『君のひとみは10000ボルト』、竹内まりやさん『不思議なピーチパイ』という今でも有名な曲が作られ、資生堂のCMで流れました。商品、楽曲ともに広く知られることとなったのは言うまでもありません。
お次は伊勢丹の広告です。今では「こんにちは土曜日くん。」と言われてもいまいちピンときませんが、要はこの時期は、日本に週休二日制という考えが広まりつつあった革新の時代。人々の生活に訪れた変化を敏感に察知し、アピールポイントとしたわけです。
こちらも伊勢丹。「なんと、まあ、」や「ってのは」などを使った口語体の魅力あふれるフランクで味のあるコピーです。上のコピーは「なんと、まあ、」というとてもくだけた文体の始まりに対する「ありませぬか」という結びの丁寧さが、アンバランスの妙となっています。伊丹十三氏のエッセイでも見られるような軽妙でありつつお洒落な文体の面白さがあり、それが両者の同時代性(3歳違い)によるものなのかどうか分かりませんが、似たものを感じました。
土屋氏のコピーだけでなく、今現在まで数多あるコピーを見て思うのは、日本語を活字化・可視化する時に、日本人が「明朝体」「句読点」に対して持つイメージをうまく利用することで、訴求力を高めることができるんだな、ということです。どこかかしこまったようなイメージを持たせることができる「明朝体」「句読点」にあえてとぼけた口語体を持ってくるというように、視覚と意味とのちくはぐさによる可笑しみを狙うことも可能ですし、逆に荘厳さを増大させることも可能でしょう。TVアニメ『新世紀エヴァンゲリオン』のサブタイトルの極太明朝体で感じる、“恐ろしいまでの大仰さ”も、「明朝体」「句読点」の効果を利用した一例ではないでしょうか。
では最後に、土屋さんが携わった広告の中でも私が一番好きなものを。
ド直球。これ以上にシンプルにできないうえに、見たものに「えっ、どういうこと?」という衝撃が走り、無視させないパワフルさがあります。私がこの広告を知ったのは某古本屋でレトロな広告を集めた本を見つけたときです。手に取りパラパラめくっただけでも、この広告は目に焼き付きました。当時の子供、特に男の子は間違いなく食いついたでしょう。お母さんに明治のチョコレートをねだる姿が思い浮かびます。
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