『ジゼル・アラン』ー優しい話、繊細な絵

漫画に求められるのは、勿論ストーリーの面白さですが、絵の雰囲気も重要なファクターですよね。漫画として優れている作品というのは、話と絵の雰囲気がぴったり合っている作品であるような気がします。

ジゼル・アラン 第1巻 / 笠井スイ / エンターブレイン / 2010
ジゼル・アラン 第1巻 / 笠井スイ / エンターブレイン / 2010

さて、話の面白さもさることながら、そんな「話と絵の雰囲気の親和性」という点で最近私が感動したのがこの『ジゼル・アラン』です。アパートの大家であり、じつは名家のお嬢様でもある少女ジゼルが、周囲の助けを借りながら「何でも屋」として成長してゆくお話。どこか上品で、優しく温かみのある作品なのですが、その温かみを表現するのに、絵の雰囲気が一役も二役も買っているのです。

とても繊細で、とにかく描き込みの密度が凄まじい!! 草花や洋服のディテール、レンガのざらざらした質感や木造の船の木目、果ては煙突の煤汚れまで、ひとつも手を抜かず、一コマ一コマ大切に描いているのが伝わってきます。登場人物の表情も、笑顔、泣き顔、照れ笑い、悔し涙、すべてにありったけの感情がこめられているよう。その感情に引っぱられて、読んでいるうちに彼ら彼女らがとても愛おしくなってきます。

優しい話と、繊細で気品のある、丁寧に描かれた絵。そのふたつが組み合わさって、うっとりしてしまうほど素敵な作品に仕上がっているのです。

当店では、漫画の単行本の買取りを承っております。出張買取も行っていますので、お気軽にお問い合わせください

青春の賛歌―『啄木歌集』

石川啄木というと、あの有名な「働けど働けど~」という短歌のイメージがやはり強いのではないかと思います。もちろんあの歌も素晴らしいのですが、あれはどちらかと言えば大人になってから共感できるようになる歌。はじめて啄木に接した小学生や中学生時代、どこかとっつきにくく感じ、そのまま啄木から離れてしまった人もいるのではないでしょうか(と、いうか私がそうだったのですが…… )。

新編 啄木歌集 / 石川啄木  / 岩波書店 / 1993
新編 啄木歌集 / 石川啄木 / 岩波書店 / 1993

しかし、啄木を食わず嫌いしてしまうのは勿体ない!! じつは、彼の作品は「青春の賛歌」とも称され、恋の歌なんかもたくさん歌っているのです。

「眼とぢて立つや地なる骸の世辿る暫しの瞬きよ恋」や、「いつはりて君を恋しといひけるといつはりて見ぬ人の泣く日に」。「はなやかに物いふ人も手をとれば仄にうつむくをかしき夕べ」は情景がふっと目に浮かぶようですし、「人ひとり得るにすぎざることをもて大願とするあやまちは好し」なんて、とても粋ですよね。

私が一番好きなのは、「春の日は今日ゆかむとす君を見てわれ落涙す故を知らずも」なのですが、恋の歌ととっても、そうでなくても、しんと沁みわたる儚く美しい歌だと思っています。

啄木は暗いし難しそう……という先入観を取り払って歌集をめくってみると、きっとお気に入りの一首に出会えることでしょう。

当店では、岩波文庫の黄帯・緑帯の買取りを承っております。出張買取も行っていますので、お気軽にお問い合わせください

『松田優作+丸山昇一 未発表シナリオ集』

松田優作さんが若くして亡くなられたために映像化されなかった6本の作品のシナリオ集です。松田優作さんの出演作はドラマの「探偵物語」「太陽にほえろ!」や映画の「家族ゲーム」「ブラック・レイン」など今でも凄く面白く、衝撃的な作品が多いですよね。もし生きていたらこの本のシナリオも傑作になっていたでしょうし、もっとたくさんの作品が生まれていたと思うと本当に残念です。

松田優作+丸山昇一 未発表シナリオ集 / 幻冬舎 / 1995
松田優作+丸山昇一 未発表シナリオ集 / 幻冬舎 / 1995

当店では、松田優作や黒澤明など映画関連の書籍も買取り大歓迎です。どうぞお気軽にご相談、お問合せください!

桜庭一樹『青年のための読書クラブ』―乙女魂のクロニクル

桜庭一樹といえば、直木賞を受賞した『私の男』を思い浮かべる方が多いと思います。しかし私にとって彼女は「少女の季節」を描き出す作家としての印象が強く、『青年のための読書クラブ』は殊にそれを感じさせる作品です。

青年のための読書クラブ / 桜庭一樹 / 新潮社 / 2011
青年のための読書クラブ / 桜庭一樹 / 新潮社 / 2011

物語の舞台は歴史ある女学校。伝統と格式、そしてプライドに凝り固まったお嬢様達の中、はみだし者の集まりである読書クラブが巻き起こす、まさに「小説の如き」事件の数々が描かれます。文庫本カバーの紹介文から引用させていただくと、「あらぶる乙女魂のクロニクル」。

それぞれの事件はエドモン・ロスタンの『シラノ・ド・ベルジュラック』やシェイクスピア『マクベス』、ホーソンの『緋文字』やバロネス・オルツィ『紅はこべ』等がモチーフとなっていて、「この小説が桜庭節をきかせるとこうなるのか!!」と思わず感嘆のため息がもれます。

この物語に登場する少女達があまりにもマイペースに学園生活を謳歌しているだけに、読み返す度「女子校に通ってみたい衝動」が噴出してしまうのが困りものです。もう無理だというのに……。

当店では、小説や文庫本の買取りを承っております。出張買取も行っていますので、お気軽にお問い合わせください!!

漫画ネタ、B級ニュース、90'sサブカル、etc……カルト雑誌「COMIC GON!」

1990年代までが、サブカル雑誌の黄金時代であったのではないかなと思います。90年代後半からのインターネットの一般層への普及により、星と消えたサブカル雑誌たち(サブカル雑誌に限らず、出版界そのものがネットの隆盛の影響を受けたワケですが)、彼らが身を寄せ合いながら遠い宇宙に漂ううちにできたのが “消えたサブカル雑誌銀河” ……あの巨星は「STUDIO VOICE」だ、あれは「relax」かな、と想いを巡らせていると、目に留まった一つの雑誌(と書いて “ホシ” と読んでいただきたい)があった。1994年にミリオン出版より創刊され、ひときわバカネタやB級ニュースに特化することで独特の輝きを放った「GON!」(ゴン!)です。

内容としては “日本一まずいジュースを探せ!”、“65歳のスケボーじいさん”、“村人157人同じ顔!” などのB級ニュースや都市伝説もの、廃墟、ドラッグ関連、レトロ趣味、村崎百郎氏の悪趣味もの、エログロ、オカルトなどの有象無象が闇鍋的に掲載されていて、“下らないバカネタ” と “見てはいけない本” の匂いがプンプンしていました。ネット隆盛前夜だからこそ存在し得た雑誌だと思います。

COMIC GON! コミック・ゴン!1~5号「GON!」にはいくつか姉妹誌があり、その中でも1997年に創刊され、全5号で休刊と短命に終わった「COMIC GON!」(コミック・ゴン!)はその名の通り、過去の名作マンガの復活作品あり、漫画ネタやアニメ特集記事、またその周辺に特化した内容でした。

続きを読む 漫画ネタ、B級ニュース、90'sサブカル、etc……カルト雑誌「COMIC GON!」