孤立が先か、ため込みが先か。笹井恵里子『潜入・ゴミ屋敷 孤立社会が生む新しい病』

生前・遺品整理業者で実際に3年間はたらいたジャーナリスト・笹井恵理子さんによるルポです。内容は、壮絶なゴミ屋敷の整理体験記、「ためこみ症」に対する医師や専門家の見解、本人や家族へ向けた具体的な解決案、整理業者ではたらく方の心情など。構成もわかりやすくあっという間に読み終わりました。悪徳整理業者の見分け方まで書かれており、細やかさに好感が持てます。

『潜入・ゴミ屋敷 孤立社会が生む新しい病』(笹井恵里子/中公新書ラクレ/2021年)

ゴミ屋敷に住む人・住んでいた人に偏見の目を向けるのではなく、住人の再起を願う笹井さんの優しい目線を感じます。迷わずおすすめできる本です。

ゴミ屋敷主人の人生を描いた橋本治さんの小説「巡礼」を読み、ゴミ屋敷に住む人間の心理に興味がわいたところに、この「潜入・ゴミ屋敷」が話題になっていたので迷わず手に取りました。読んでいてあまりに自然に「巡礼」の主人公の描写・心情とぴったり符号するので驚きました。

現場ルポは本当に壮絶です。死臭、虫、大小便、亡くなった遺体の痕跡の描写が、読んでいて自分の顔が歪んでいるのが分かるほどに。住人の孤独の痛ましさをリアルに物語ってくれます。
帯に「こんな家に住んでいると、人は死にます。」とありますが、これはけして煽り文句ではないことが読めば分かります。

ものをためこみ過ぎて日常生活や社会生活に影響をおよぼしてしまう「ためこみ症」は2013年に精神疾患として定義されました。
そもそも「ものを必要以上にためこむ」という行動自体は他の疾患にも見られるようです。ADHDは整理整頓が不得意であったり、うつであれば整理・処分する気力がない。認知症の場合はなにを所有しているかを忘れてしまう。統合失調症は「これを処分すると大変なことになる」という妄想、、、それらがきっかけでためこみ行動が起きるとされています。
上記の疾患と区別される「ためこみ症」は、人間関係の強烈な喪失体験(大切な人との死別や離婚その他)がきっかけとなり、ものをため込むことで喪失した部分を埋めようとする病気だそう。ためこんだものが自分の一部のように感じられるため、処分することに苦痛を伴うとのことです。

ゴミ屋敷の住人は、社会あるいは人とつながれなかったからためこみ行動に出てゴミ屋敷をつくりあげてしまったのか。それともゴミ屋敷になってしまったから周りから孤立してしまったのか。どちらが先かはわかりませんが、行政でもご近所さんでも友人でも、なにかしら「だれかと繋がること」がゴミ屋敷から脱する手がかりになることが分かりました。

最後に笹井さんは、コロナ以降の孤立をふせぐためには「"弱くゆるい人間関係"が大事」と書かれています。やはり昨今の社会のあり方におけるキーワードですね。肝に銘じます。

余談:「SM系エロ本」を大量にためこんでいた現場のルポで、大学教授にためこみ行動とSM趣味の心理的な関係をたずねていたところは、不謹慎ですが少し吹き出してしまいました。

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投稿者:

店員T

基本なんでも広く浅く。たまに楽器も触ります。