動物行動学者・日高敏隆先生による、動物行動学と自身の経験から得た「世界の見つめ方」を説いた本です。とても読みやすいエッセイ形式であり、最後には講演が収録されています。
著者の日高先生は動物行動学者ですが、著作にふれるたびに科学者的ではなくてエッセイスト的だなあとつくづく感じます。学術的でなく文芸的な表現です。
学会みたいな肩肘張った場所から離れた、軽やかで柔らかな日高さんの姿勢に憧れます。日高さんは科学的な理屈の世界に埋没せず、子どもの頃のシンプルな「なぜ?」を大事にし、そのせいで権威的で格式を重んじるような場所では異端だったことでしょう。しかし、だからこそ万人が気軽に読めるようなエッセイで自分の考えを人に届けることができるのだと思います。
人類学系の本によく登場するトピックに「宗教と科学」があります。今のように科学が進歩する前は、人間に分からないことは全部「神のお考え」であって、変に理屈をこねずに済ませていたのです。しかし科学の進歩と引き換えに宗教の力が弱くなった今、頼るべき道徳的規範となる神を失くした多くの人たちは、心の支えがないために悩みが多くなってしまいました。しかし悩み多けれど、神と科学、どちらにもしがみつかずに自らの知性を力にして生きていくことが今後の人間のテーマだと日高先生は語ります。胸にささる言葉です。
ほかの方の動物や虫の本を読んでも思うのですが、動物学は動物を通して「人間とはどんな生き物か、人間社会とはどんなものか」を探りたいという欲求が根本にあるのだなとつくづく感じます。