現在公開中のドキュメンタリー映画『リル・バック ストリートから世界へ』を鑑賞してきました。
1988年にシカゴで生まれたリル・バックは、犯罪が多く物騒なメンフィスで育ちますが、ストリートダンスに出会い、ダンスに魅了されるうち、奨学金でバレエのレッスンにまで通い、ストリートとクラシックをミックスした独自のダンススタイルを確立。世界的な表現者たちの目に止まり、今や世界を飛び回るダンサーとして活躍しています。
映画『リル・バック ストリートから世界へ』は、リル・バックのこれまでの歩みを、リル・バック本人、ダンス仲間、家族、共演したクリエーターたちのインタビューと、リル・バックたちのダンスが見られるミュージカルシーンで構成された映画です。
治安の荒れたメンフィスで育つも「ダンスがあるからギャングにならなくてすんだ」とインタビューでは語られますが、母親の育て方もリル・バックを悪の道から守ったことは映画を見れば分かります。ダンスの練習に明け暮れるために一週間でスニーカーを履きつぶしてしまう彼に、その都度あたらしいスニーカーを買い与え、彼の夢を全力でサポートしたのです。「夢を持ちなさい」と子どもたちに説いてきた母親のインタビューが私は一番胸に残っています。
ダンスに詳しくない私でも、リル・バックのダンスは素晴らしいと思います。スニーカーでもトウシューズのようにつま先立ちで体勢をキープし、荒れたコンクリートの上でも滑るような足運び、そして白鳥が身を折りたたむような関節の柔らかさ。ストリートのイメージにない気品を感じるダンスです。まさにストリートとクラシックの融合。
リル・バックは世界的チェリスト、ヨーヨー・マの目に止まり、招かれたパーティーで二人は共演。ヨーヨー・マの奏でる『白鳥』の調べに合わせて、帽子からスニーカーまで全身黒尽くめのリル・バックが、まるで美しい白鳥のように羽ばたき、舞い、身を折りたたむ。その場にいた人からは大きな拍手が送られ、会場に居合わせていた映画監督のスパイク・ジョーンズがその様子を携帯電話で撮影しており、ネット上にアップされるや否やリル・バックは世界中に注目されたのです。
この映画の原題は『LIL BUCK Real Swan』ですが、まさに『みにくいアヒルの子』のように、けして裕福でない、治安の悪い場所で育った彼が美しい白鳥として世界に羽ばたき、成功を掴む姿に感動しました。
機会があれば、ぜひ映画館へ。もちろん、くれぐれもウイルス対策を万全にしてくださいね。
《作品ホームページ》http://moviola.jp/LILBUCK/