『ハリー・ポッターと呪いの子』――厳しくも優しい、誠実な続編

その世界観と魅力的な登場人物たち、そしてファンタスティックなストーリーで世界中の子供達を今なお虜にしつづける「ハリー・ポッター」シリーズの正統な続編『ハリー・ポッターと呪いの子(スペシャル・リハーサル・エディション・スクリプト)』が刊行されて数カ月が経ちました。

書店に走ったあの日から、ひとつ季節が移り変わったのかと思うと時の流れの速さにびっくりさせられます。そのうちここで感想を述べよう、と決めてはいたのですが、時節に合わせた記事を書いているうちに時は過ぎ、完全にタイミングを逸した形になってしまいました……。作品への愛だけはありったけ込めましたので、本編ファンでまだ「呪いの子」は読んでいないけれどどんな感じだったのだろう、と気になっている方や、「呪いの子」を読み終えて他の人の感想も知りたい!! と思っていらっしゃる方に楽しんでいただけたら幸いです。

前者の方々のため、ネタバレにならないよう、できるだけ具体的な内容には触れずに感想を書いてゆきますが、すでに読破なさっている方は、「ここはあのエピソードのことを言っているんだな?」とニヤッとしてみてください。

ハリー・ポッターと呪いの子 / J.K.ローリング&ジョン・ティファニー&ジャック・ソーン 松岡佑子訳 / 静山社 / 2016
ハリー・ポッターと呪いの子 / J.K.ローリング&ジョン・ティファニー&ジャック・ソーン作、松岡佑子訳 / 静山社 / 2016

この続編は、ハリーの息子アルバスとドラコの息子スコーピウスの友情・冒険物語であると同時に、かつて多くの犠牲の上に英雄となったハリーたちが過去に復讐され、それを苦悩しつつ受けとめたて再び成長してゆく、そういった物語であったように思います。

ハリーとヴォルデモート卿の戦いの中で、世界を救うべく駆け抜ける「生き残った男の子」のすぐ隣で命を落とし、 その激動ゆえにゆっくり悼まれ顧みられることすらなかった、ハッピーエンドからとり零された人々。彼ら彼女らのことを今一度思い起こさせ、また同時に、グリフィンドールとスリザリンの確執など、本編でわだかまりを残したままであった事柄をもひとつひとつ解きほぐしてゆくような、本編と真っ向から対峙する続編。

三校対抗試合のラストでヴォルデモートの手にかかったセドリック・ディゴリーへの言及や、本編では結局互いが互いを嫌い、厭い、あるいは憎んだまま終わってしまったグリフィンドールとスリザリン、その対立の象徴であったハリーとドラコの関係性の変化にはぜひ注目してほしいところです(スコーピウスと、ロンとハーマイオニーの娘ローズのそれにも)。ジェームズやシリウスが幼き日に行ったスネイプ少年へのいじめもあって、スリザリンはたしかに傲慢で差別的だけれど、そんなスリザリンに対するグリフィンドールの接し方も大概ではないか、という意見がしばしば読者から出ていたように思いますが、本書の序盤でハリーによる闇の印をもつ者への「逆差別」という言葉がドラコから発されることからも、本編では解決することのなかったこの問題にしっかり向き合おうという姿勢が感じられます。

また、この物語のキーとなる「呪いの子」(おそらくはトリプルミーニング)、そのうちのひとりに救いがもたらされることはありませんでした。それまでの流れで独善的な視点を取り払われ、その子をただの「悪」だと決めつけることのできなくなった読者に、だれもが幸せになれる物語など存在しないのだと、残酷なまでにはっきりと突きつけた。だからこそ、「死の秘宝」のクライマックスで、ハリーがヴォルデモートを、モリー(ロンの母)がベラトリックスを打倒したときのような爽快感はないかもしれない。けれど、それでいい、そうあらなねばならない、そのやるせなさこそが、「戦い」というものを見届けたとき、 わたしたちの心のなかに本来生まれるべきものだと、諭されたような気がしています。

ハリーとヴォルデモートの共通点と相違点については、これまでにも作者や読者たちから頻繁に言及されてきましたが、個人的には今回の、救われることのなかった「呪いの子」とハリーの境遇の似通い様に、まさに因果応報、運命の皮肉を感じました。あの子の言葉は、ホグワーツ1年生のときに「みぞの鏡」に夢中になったハリーをえぐっただろうなと。

愛と冒険と成長の物語の続編として、とても誠実であり、厳しくも優しい、そんなすばらしい作品であったと、心の底からから拍手を贈りたい。

また、作者の母国であるイギリスで舞台「ハリー・ポッターと呪いの子」が上演されたとき、続編が描かれたことによって「その後」を想像する楽しみが奪われた、といくらか残念に思われた方もいらっしゃるかもしれませんが(孫世代、という通称でのファンアートも盛んに作られていましたし……)、蓋を開けてみれば、本編中にいくつもの“if”の世界が呈示されたことで、ここがこう違っていたらこの人はこうなっていたかもしれない、などと本編を読み返しながら想像する楽しみはむしろ増えたといえるのではないでしょうか。

最後にひとつだけ。これは『呪いの子』を読了した方に向けた言葉ですが、スコーピウスは狡猾の象徴としてのそれではなく、大切なひとのために自分の体を燃やせる、銀河鉄道のサソリでしたね。

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