今年で3回目となる「新・午前十時の映画祭」。6名の映画評論家が選ぶ過去の名作、計30本を全国54ヶ所の映画館で1年間を通して連続上映する企画映画祭です。
今まで気になってはいたものの、なにしろ毎日午前10時から1日1回限りの上映なので、なかなか重い腰が上がらなかったのですが、今回は1作目からどうしても見たい作品だったので初参加してみました。
というのもこの映画のサントラ盤をずっと愛聴していて、いつか映画本編も見たいと思っていたので今回ちょうどいい機会と思ったわけです。ザ・ビートルズと並んでイギリスを代表するグループであるビージーズが手がけたサントラ盤はそれはもう素晴らしく、これらの曲が映画館で聴けると思うと想像しただけで体が震えます。
1971年のイギリス映画『小さな恋のメロディ』。原題は「Melody」ですが、主人公2人のうちの少女の名前にもなっていて、映画を観るとまさにピッタリの素敵な邦題だなと思います。オープニングにかかる曲は「イン・ザ・モーニング」。今まで歌詞を見たことがなかったのですが、これも映画を観ると、単なる「朝」ではなく一日を人生になぞらえた場合の「朝」なのだということがわかります。「これが僕の人生の朝」と美しく叙情的に歌い上げます。
主人公の男の子と女の子はおそらく11歳くらいの設定、伝統的で厳格な学校生活の中でいつしか自然に惹かれ合う2人は本気で結婚したいと思うようになり親に打ち明けるのですが、なにしろ11歳の子供の言うこと、当然親は呆れて取りあおうとしません。そこで主人公のダニエル君が声を荒らげて訴えます。「なんでダメなんだ! 夜になったらそれぞれの家に別れるなんて嫌だ! すべての時間を一緒にいたいんだよ!」この至極当然な純粋すぎる訴えにもう涙が止まりません。ほんと、なんでダメなんだっけ? って思ってしまいました。
ダニエル君にはいつも一緒に遊んでいる男の子の親友がいるのですが、ダニエル君がメロディに夢中になるにつれ、親友の遊びの誘いにはついていかなくなる過程が少し切なく描かれています。親友は必死になって「合体ロボ買ったんだよ~!」とか「ケーキもあるよー!!」みたいなことを叫んでダニエル君の心を繋ぎ止めようとするのですが、その前を素通りして黙々とメロディの方へ歩いて行くシーンは大変印象的です。親友にしてみれば、昨日まで一緒に楽しく遊んでたのに一体なんなんだ!? とまったく理解出来なかったのでしょう、こういう経験は大人になってもよくありますよね……。
親友だけでなくクラスの同級生たちもまだまだ子供。冷やかしたりからかったりしますが、取っ組み合いのケンカにまでなった結果、みんな2人の真剣さを理解するようになり、最後には授業をボイコットして結婚式をお膳立ててあげることになるのです。駆けつけて来た親や教師たちとたたかいながらも、仲間の助けで2人はトロッコに乗って地平線まで漕ぎ続けるシーンで映画は終わります。
話自体は他愛もなく、とくに前半はドキュメンタリー調に学校生活が淡々と描かれているので実に地味な映画なのですが、なぜだかとても胸が熱くなります。やはりビージーズの曲への思い入れがそうさせるのは間違いありませんが、エンディングテーマになっているクロスビー、スティルス、ナッシュ&ヤングの曲の歌詞もこれ以上ないほど映画とシンクロしていて、最後はずっと泣きっぱなしです。しかし軽くまわりを見回してみても誰も泣いてなさそうだったので、自分はちょっとおかしいのかも……。客層はやはり白髪交じりの方が圧倒的でした。年配のご夫婦らしき方達が近くにいらっしゃって、もしかして44年前も2人で観てたのかなと思ったり……なかなか良い時間を過ごせました。
ところで主役ダニエル君役のマーク・レスターと親友役のジャック・ワイルドは同じコンビでこの映画から遡ること3年前の1968年、ディケンズ原作のミュージカル映画『オリバー!』の主役に抜擢されています。子役2人の同じコンビを違う映画でまた主役にするってなかなか今では考えられないと思いますが、この『オリバー!』もまた傑作です。